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想い合い



ホームに電車はなくてどこまで続いているのか分からない線路が細長く伸びていただけ。
しばらく動かないでボーッとしていたら、わたしを呼ぶ声が聞こえたんだ。


『カヤさん』
『っ、誰?』
『貴女がトムの愛しい人ね。ふふ、可愛らしい子で良かったわ』


そう言って綺麗に微笑む半透明の女の人がいた。


「それが、わたしとメローピーさん…リドルのお母さんとの出会いかな」
「…それで?」
「それから、メローピーさんとリドルのことについて少しお話していたら…あの夜の日に見たわたしの守護霊?のライオンが突然現れたんだよね」


そのライオンはわたしの周りをゆっくり回ってから、どこかへと歩き出した。

メローピーさんは『トムのことを幸せにしてあげてね』って綺麗に笑って消えていって…わたしはそのライオンのあとを追ったんだ。


「そしたら、青白い大きな蛇が目の前に現れてわたしとライオンに巻き付いてきた」
「それは、多分…」
「うん、きっとリドルの守護霊だよね」


蛇に身体を包まれると急に眩しいくらいに辺りが光って、目を開けてられなくて。
目を開けようとする前に身体に浮遊感を感じて、気付いたら誰かの上に乗っかってて。


「それが僕だったってわけか」
「そういうこと!」


ニコリと笑うと、リドルがわたしの頬に手を添えた。

暖かい大きな手で、滑るように優しく頬を撫ぜていく。
こうやってリドルとまた触れ合うことができるなんて、本当に夢みたい。

リドルの手つきが擽ったくて少し恥ずかしくなって身を捩らせると、リドルは顔を近付けてきてコツンとわたしの額と自分のそれをくっ付ける。


「…カヤ。今度は君が元の世界に帰ってしまうなんてことがあってまた離れてしまったら僕は…もう耐えられない、きっと」


リドルの声がほんの少しだけ震えているように聴こえた。

こんなにもリドルと顔が近くていつもなら照れて何も言えなくなってしまうけれど…。
リドルの、ギュッと目を閉じて切なそうに眉を下げているその表情にグッと胸が鷲掴みにされてしまう。


「…リドル、」
「カヤ?」
「わたしはずっとリドルの傍にいるよ。いなくなったりしない」
「そんなの、分からないだろう…」


僕だって抗う暇も無く問答無用でこっちに連れ戻されたんだ。と言うリドルの言葉は確かに最もだけど。

わたしは安心させるように微笑んで、リドルがしてくれているようにわたしも彼の頬を両手で包み込んだ。


「こっちにくる時にね、メローピーさんがわたしに聞いたんだ」
「………」
「もう元の世界には戻れなくなるけれど後悔はしない?って」
「カヤは、なんて」

「勿論二つ返事だよ。…このままずっとリドルと会えないままの方が絶対後悔する。それに、わたしはリドルが何より大切で何より愛してるから」


そう言って、わたしは初めて自分からリドルにキスをした。

触れるだけで終わる予定だったのに、リドルがわたしの後頭部に回した手によってそれだけでは終わらず。


「ん、…」
「……は、」
「んぅ…っ、ちょ、リド…っ」


口内で暴れるリドルの舌に翻弄されて、身体の熱が一気に上昇していく。

やっと解放されたわたしの唇とリドルの唇を繋ぐ銀糸がやけに厭らしく感じて、わたしは恥ずかしさを隠すように『ばかリドル』と小さく呟いた。


「僕のカヤ。…愛してる」


リドルからのキスは、今度は触れるだけで終わる。

優しく穏やかに緩められた目元と口元。
とても綺麗に微笑んだリドルは、わたしをギュッと抱き締めてベッドに身体を倒した。


「リドル、」
「…トム」
「え、?」
「トムって呼んで、カヤ」
「でも…」
「いいから」


父親と同じ名前だから好きじゃないと言っていたからそう呼ぶのは躊躇われたけど、リドルは呼んでほしいと言う。

わたしはきゅっと唇を噛んで、そして息を吐きながら彼の名前を呼んだ。


「ー…トム、」
「なに?」
「大好き」
「…知ってる」


(君に呼ばれるとあたたかい)