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2人の道



初めて見た、彼の頬を伝う涙にわたしの胸がギュッと締め付けられて…愛おしい気持ちが込み上げて。

ぎゅうっとリドルに抱きつけば、ゆっくりとわたしの背中に腕を回してそっと抱きしめ返してくれた。


「リドル、」
「…カヤ」


しばらく、お互いの名前を呟き合っていれば耳元でリドルが小さく笑うのが分かる。


「どうしたの?」
「…いや。本当に、僕には君が必要不可欠なんだっていうことを改めて実感したんだ」


それに反応しようとすれば、リドルの唇に塞がれて言葉にならなかった。


「…んっ」
「はぁ、カヤ。…好きだ」


…すごく安心した。
離れても、本当にリドルはわたしをずっと想っていてくれていたんだと分かったから。

なんだか急に恥ずかしくなった。
そういえば此処って外なんじゃ…?
真っ赤になっているであろう顔を見られたくなくてリドルの肩に顔を埋めると、ヒョイっと抱き上げられた。


「どこに行くの?」
「ここはホグワーツの敷地内なんだ。多分カヤがここに現れたことを校長や教師は既に気付いている。とりあえず、君のことを説明するために城まで行くよ」


それは分かったけど抱き上げる必要はないんじゃないのかなぁ。
その気持ちを込めてリドルをジトーっと見つめていれば、目元と口元を緩ませた彼にチュとキスされる。

面食らったわたしを見て可笑しそうに笑うリドルが、少しだけ頬を染めて本当に嬉しそうな表情をしてるから文句を言う気になれなかった。

またリドルに会えて本当に良かった…。
わたしは自分の世界から持ってきた小柄なバッグを手に抱えて、小さく息を吐いたのだった。




***


城に着くまでは大人しくしていたカヤも、さすがに人目につくところで僕に抱き上げられている状態は嫌なようで仕方なく下ろしてやった。

喋りかけてくる絵画や動く階段、そしてゴースト。
きっと初めて見るだろう色んなものに、驚いたり怖がったりしているカヤが本当に可愛い。

幸い、ほとんどの生徒は授業中でホグワーツの中は閑散としていた。
ゴーストに身体をすり抜けられて放心状態だったカヤが首をブンブン振って我に返ったところで、ようやく校長室へと辿り着く。


「いいか、カヤ。余計なことは言わないように」
「…余計なことって?」
「それは、色々だ。…ディペット校長!いらっしゃいますか?」


校長室の合言葉は分からない。
だが呼べば入れてくれるだろうと声をかければ、ガーゴイル像が鈍い音を立てて道を開け始めた。


「おお、トム。どうしたんだね?」
「…ダンブルドア教授もいたんですか。ちょうどいい」


ガーゴイル像の奥から出てきたのはダンブルドアで、僕の背中にしがみつくカヤの手に力が入るのが分かる。

きっと此方にきて僕以外の人間に初めて会うから多少なりとも怯えているんだろう。
僕はクスリと笑ってカヤの手を引っ張り、前に出させて彼女の肩を抱いた。


「ダンブルドア教授。彼女が、カヤです」
「…なんと、!」
「それで、彼女について少しお話させていただきたいことがあるのですが…校長室へ通してもらえますか?」


カヤを食い入るように見ているダンブルドアにイラッとして口調を強くさせると、浅く頷いた彼は「ついてきなさい」とだけ言う。

隣を見れば不安げに揺れるオレンジの瞳が僕を見つめていて、彼女の前髪をかき分けて額にキスを落とした。


「大丈夫。悪いことには絶対にさせない」
「…うん」


眉は下がったままだけれど表情を和らげて笑みを作るカヤ。
…だいぶ離れていたからなのか分からないが、些細なことでも彼女がとても可愛く、愛おしく思ってしまう。

色々落ち着いたら改めて、カヤを思う存分堪能することにしようと決めた。