愛しい人
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僕の守護霊である大蛇は、時折僕を振り返りながらどこかへと向かっていた。
そのあとを足早に追いながら、僕はもう一度深く息を吐く。
成功する確証はなかった守護霊魔法。
母さんが夢に出てきたあの日から毎日のように練習したが、一度として守護霊が姿を現すことはなかったから。
…でも、できた。
カヤを想い、彼女からも想われていると信じた。
そしてカヤとの幸せを思い出し、再び彼女と幸せになる未来を思い描いた。
「…カヤ」
吐息と共に彼女の名前を呟く。
すると、ピアスが急に熱を持ち始めて僕はそれを外して手の平に転がした。
いつになく赤く神々しく輝きを増しているように見えるピアス。
禍々しいものではない。
しかし何かと呼応するようにどんどん輝きが強くなっている。
それを見て何故かドクンと胸が高鳴り始めた。
「まさか、」
ハッとして目の前の蛇を見ようと顔を上げれば、いつの間にか禁じられた森の近くまで来ていたようで少し肌寒さを感じる。
蛇が湖の上に浮かび上がり、そしてそのまま消えていった。
少し遠くで授業が始まる合図である鐘の音が小さく響いているのが耳に入るが、僕はこの場から動けずにいた。
きっとあの守護霊が僕をここへ導いた意味があるはずなんだ。
グッと手に持つピアスを握りしめると、今まで以上の熱を感じる。
「…っ!?」
するとピアスについた赤い石が一際大きく光を放ち、その眩しさに目を覆う。
目を開けようとしたその時。
ドンと身体に大きな衝撃が走り、耐えきれず地面へと倒れこんでしまった。
一体なんなんだ…!
身体に乗る重みを人間だと理解すると、思わず魔法を使わずに殴り飛ばしそうになった。
だけど。
「い、たた…っ」
この香りは。
「…ん。あれ…」
この声は。
「―…リドル、?」
この暖かい瞳の色は。
「…っカヤ」
目の前の彼女とカチリと視線が合わさると、一筋の涙を流して嬉しそうに綺麗に微笑む彼女。
どうしようもなく胸が締め付けられて、目の奥がジンと熱くなる。
「カヤ…っ」
掠れて、情けなく、弱々しい声で呼んだ。
「…リドル」
カヤは僕の首に手を回して、ギュウと抱き着いてくる。
彼女は変わらず、甘く暖かくて、ひどく心が満たされた。
母さん、やっぱり僕は、カヤがいないとダメみたいだ。
(彼の頬を濡らす)