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”入れ物”は見つかった?と彼はわたしに問う。
口元に軽い弧を描いているくせに、その紅い瞳は冷たく鋭い。
数回首を横に振ると、彼は顎に指を添えた。
「困ったな…」
その言葉は本当なのだろうか。
だって目の前の彼は愉しそうに笑っている。
「どうする?」
「…どう、するって…」
「君が用意できないなら、僕が自分で選んで」
殺すしかなくなるけど。
そう言って、鼻と鼻がくっついてしまいそうなほど近付いてくる彼の端正な顔。
まるで蛇に睨まれた蛙のように動けないでいるのに、やっぱり彼はイケメンだなと呑気に思った。
「わたしで、いいかしら?」
いつも余裕そうな作り笑いを浮かべていた彼の表情に、わずかな驚きが見て取れる。
その様子があまりにも珍しくて、こちらまで面食らってしまった。
この人は、こんな人間らしい表情もするんだ。
「君は、死ぬのが怖くないのかい?」
「…怖くないわけないわ」
「それに、僕が”何の為に”人の命を欲しているか…知ってるんだろう?」
コクリと小さく頷けば更に目を見開く彼。
見くびらないでよ、とふと笑って見せた。
仮にもレイブンクロー寮生で、あなたともいつも首位を争っていたんだから。
「誤算だよ。君がそこまで聡明だと思ってはいなかった」
「…本当に聡明なら、自分の命を差し出すようなことになる前にもっといい方法を見つけられたはずだわ」
でもわたしには、人の命を軽んじれるほどの冷酷さはない。ならば、と考えて行きついた先は自己犠牲しかなかったのだ。
わたしから距離をとり、杖を向けてくる彼をまっすぐ見つめた。
「僕の企てを知っているのに、止めるどころか君は…僕に命を捧げるというんだね」
「…止めたら、止まる?」
「………」
最初はとても怖かった。
まるで人形みたいに作られた表情しかしない彼が。
自分の感情や考えをいつも胸に秘めて、良からぬことを企む彼が。
でも、それだけじゃないと最期に知れただけ十分な冥土の土産になる気がする。
「…何故笑っている」
「責められるべきはあなただけじゃないわ、リドル。あなたの企てを知った上であなたに命を捧げることは、あなたが闇に堕ちる手助けをしたも同然だもの」
それならわたしも共犯者、でしょう?
小さく笑んだ瞬間、目の前に緑色の光が広がり、それは閃光となってわたしの身体を貫く。
「ナマエ、」
鼓動が止まる最中に見えた彼の表情は、今まで見たことのないほど歪められ、印象的な紅い瞳がゆらゆらと揺れていた。
共犯者の笑み
(次は地獄で会いましょう)
何が書きたかったのかよく分からん!
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