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2人目の友だち [ 5/38 ]




それから、暇さえあればスズネの元へ駆け寄って何やかんやと構い倒すリリーの頑張りの甲斐あってスズネは彼女に心を許し2人はすっかり打ち解けていた。

スズネが信頼している人物は、このホグワーツには今の時点では3人に増えたことになる。


「スズネ、あなた今日グリフィンドールの1年生が転びそうになったのを抱きとめて助けてあげたらしいじゃない?」
「…あー、だって階段で転んだら危ないし気付いたのわたしだけみたいだったから」
「もう…顔も性格も良いって今じゃあなたのファンクラブが立ち上がるくらいなのよ?」


午後はピーブズと遊ぼうかなあ、とぼんやり考えていた時に聞こてえきた言葉にギョッとして隣を歩くリリーを見た。


「ファンクラブ?」
「ええ。あなた、自分の写真に値段が付けられて売られてるのってどう思う?」
「どう思うって…何だか気味が悪い…」
「そうね、そうよね!だから私マクゴナガル先生に相談しようと思ってるのよ」


そんなことまでされるほど自分の容姿は良いものだったかな。
少なくとも日本にいる時はファンクラブができるどころか、スズネいじめっ子クラブができそうなくらいだったのに。

紅い瞳もそこまで気味悪がらないでいてくれる人が多い証拠でもあるし、好意のファンクラブであるならば良いとまではいかなくても悪いものでもないのかもしれないとスズネは結論づけた。




■■■



「本日は縮み薬を調合する。板書してあることに注意して教科書を見ながら取り組むように。さあ、2人1組のペアになって!」


魔法薬学の教授であるスラグホーンがパンと手を叩いたことによりスズネの意識は浮上した。
昨夜はダンブルドアに借りたホラー小説が面白すぎて夜更しをしてしまっていた為、すごく眠い。

グリフィンドールと合同であればリリーが「一緒に組もう!」と他の生徒に睨みをきかせてスズネの隣を陣取るのだが、今日はスリザリンのみの授業だ。

2人1組という言葉が眠たさに支配された彼女に聞こえたかどうかは定かではないが、とりあえずといったように未だ開かれていなかった教科書をペラペラと捲り出した。


「…………」


何かを思案する訳でもなく、板書された文字を見るわけでもなく淡々と手を動かすスズネをチラチラと気にして見ているのは同じスリザリン生であるセブルス・スネイプだった。

日本からの編入生であるスズネは、他人に関心のない彼にとってもよく目につく存在だ。

同じスリザリン生であるために授業を共に受けることが多く、その中でも魔法薬学が彼女の苦手な教科書であろうことは授業を受ける様子を見れば明らか。

今もそうだ。
魔法薬の調合は細心の注意を払って行うべきものであるのにも関わらず、死んだ芋虫をオーバーキルするように刻み続けるスズネは彼から見たら危険極まりない。

あのまま刻み続けていればいつか彼女の指もあの芋虫のようになってしまうだろう。


「…おい、」


これ以上見ていられないと言ったようにセブルスが痺れを切らして声をかけたが、スズネには聞こえていないのか彼女の手が止まることは無かった。

彼はチッと舌打ちをした。
放っておけばいいとも思ったが、このまま野放しにして鍋を爆発でもさせられたら隣にいる自分も被害を被るかもしれない。


「ユキシロ!」
「…へあ、い!?」


いきなり隣から聞こえた低い声にビクリと肩を跳ねさせたスズネは、その拍子に手に持っていた小さなナイフで指をザクりと切ってしまった。

セブルスもそうなるとは思いもよらなかったのか、彼女が怪我をしてしまったことに内心で動揺しながらも「僕は悪いことはしてないはず…」と冷静になる。

痛い、と小さく呟いて指を咥えている彼女に若干の罪悪感はあるが。


「…ぼーっとしてるから怪我をする」
「あー、うん。ちょっと今日は眠くて」
「見ていて危なっかしいし、君が失敗したら僕にまでとばっちりがくる。調合の時くらい集中しろ」
「…ごめん」


シュンと眉を八の字に下げるスズネの反応は、周りが囃し立てているような彼女のイメージとは幾分か異なるように見えた。
年相応の、普通の女子だ。

謝罪を口にしたスズネは、眠気を取り払うようにブンブンと顔を振って調合を再開させる。
しかし、彼女の下準備はどうにも見ていられなかった。

危ないというよりもそもそもの処理の仕方や手順が間違っているのだ。
セブルスは手を出したくなるのを我慢して、隣から助言をするだけに留めることにした。


「ユキシロ、芋虫は死んでいるものを使用するから刻む必要はない」
「あ、そうなんだ」
「ヒルはナイフの腹で押し潰すと汁が出やすい」
「…へー」
「雛菊の根は5ミリ台だ」
「は、はい」


スズネは初めて話すホグワーツの男子生徒に戸惑いながらも、不機嫌そうにだが親切に教えてくれるセブルスに対して悪い印象はなかった。

黒髪と肌の色の白さが自分と似ている気がして、リリーの時と同じようなちょっとした親近感も抱く。

それからスズネはセブルスから助言を受けながら一応の縮み薬を完成させて、セブルスも人の面倒を見ながら調合していたとは思えない程の完璧な調合をして見せた。


「調合できたものを小瓶に入れてタグに名前を書いて提出するように。今日の授業はここまで」


授業が終わって図書館にでもいこうかと席を立とうとしたセブルス。
そんな彼のローブを引っ張って呼び止めたのはスズネで、少し興奮したように頬を紅潮させてセブルスを見上げていた。


「ねぇ、君ってすごい」
「…何がだ」
「縮み薬の調合」
「あのくらい出来て当たり前だろう」
「でも完璧に完成させて加点までもらってたのは君だけじゃん。すごい」
「……っ」


手放しでここまで素直に褒められることなんて今までになかったため、セブルスは少し顔色も気分も良くなっていく。


「よかったら名前、教えてくれる?」
「…セブルス・スネイプ」
「わたしはスズネ・ユキシロ。君は知ってたみたいだけど」
「まあ。君の噂はよく耳にしていたから」


セブルス自身、何故素直に名乗るようなことをしたのかは分かっていなかった。
ただ編入生ということと、リリーと仲が良いということとがスズネへの興味を駆り立てているのだと思う。

噂という言葉を聞くなり、キュッと眉間に眉を寄せて訝しげな顔をしたスズネを見て小さく笑いを零したセブルスを見て彼女も微笑んだ。


「セブルスって呼んで、いい?」
「…構わない」
「わたしのこともスズネで。これから魔法薬学の授業、セブルスがいるから百人力だ」
「おい、何で僕が手伝う前提なんだ」


ホグワーツで2人目の友達は、ちょっと無愛想だけど優しいスリザリン生の男の子。


(わたし達はここから始まった)


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