同じ赤色 [ 4/38 ]
スズネがホグワーツへきて1ヶ月が経った9月1日の日。
組み分け帽子の長い長い思考の末。
あまりに悩んでる時間が長く痺れを切らしたスズネが「早くしないと燃やすぞ」と脅したのがきっかけとなり、彼女はスリザリンに組み分けされた。
そして無事にホグワーツの3年生に編入となったのだが。
ゴーストに触ることのできる赤眼の日本人。
という目立たずにはいられないような印象付けをすることになってしまったスズネにとって、ホグワーツでの学生生活は非常に居心地が悪いものだった。
みんなの前で組み分けの儀式をされた時の周りの反応でこうなることは予想はしてたけど…と、彼女は朝食を食べながら視線を彷徨わせる。
怖いのかなんなのか、彼らは話しかけてくることはなくいつも遠巻きに見てくるだけ。
なんか、イライラする。
そう思ってスズネは前髪をくしゃりとかきあげた。
その瞬間、キャー!という女の悲鳴が飛び交って驚いた彼女の持つコブレットからはその振動でオレンジの液体が少し零れる。
「はあ…」
これも、居心地が悪いのとイライラする原因のひとつだ。
毎度毎度何かするごとに周りの女の子たちが今のように叫ぶものだから、いつもビックリして食事のときなんかは飲み物を零してしまう。
魔法薬の調合中だったら、と考えると笑えない。
そんなこんなで今朝も、ローブに小さな染みができてしまいスズネは大きな溜め息をついてそれを清めたのだった。
■■■
「…なんで叫ぶんだろう」
苦手な授業である魔法薬の勉強でもしようと静かな場所を探して、結果図書館の隅っこに腰を落ち着けたスズネだったが。
「あなたがかっこいいからよ」
思わず呟いた言葉にまさか返事があると思ってもみなかった彼女は手に持っていた羽ペンをポキリと折ってしまった。
1日に何回人を驚かせば気が済むんだ此処の人達は、とスズネはドキドキと速い鼓動を落ち着かせようと胸に手を当てる。
目の前にいる彼女は赤い髪に緑の瞳を持つグリフィンドール生だった。
「初めまして。私はリリー・エバンズよ」
「…スズネ・ユキシロ」
リリーと名乗った彼女はスズネの前に腰掛けると、不審そうに自分を見る目に苦笑する。
日本から来たという彼女は女性なのにも関わらず、スラリと手足が長く、髪も短くて目はパッチリ二重だけど切れ長。
スっと通った鼻筋に肌の色は白い。
そしてなにより綺麗な真紅の瞳。
そんな中性的な容姿のスズネは、ホグワーツの女子生徒の中で「そこら辺の男よりかっこいい!」と絶大な人気を誇っていたのだ。
それにしても編入してきて早々キャーキャーと朝からうるさくされてるスズネには同情してしまうけど、とリリーはふぅと息を吐いた。
「何か用、ですか?」
「そんなに警戒しないでほしいわ。たまたま噂の編入生を見つけたから興味があって声をかけてみただけなのよ」
リリーが肩を竦めてそう言うと、スズネは少しだけ力を抜く。
編入生の自分にこうして直接話しかけて来てくれたのはリリーが初めてだった。
…できることならこのチャンスは無駄にしたくはない。
「わたしが、かっこいい?」
「ええ、みんなそう言ってる。私も思ったもの!」
興奮したようにリリーが声を荒らげるとすかさずマダム・ピンスの怒号が飛んできて、彼女は縮こまる。
その様子に、思わずクスリと笑いを零してしまったスズネがハッとして口を抑えていると同じような仕草のまま固まってしまっているリリーが目に入った。
「エバンズさん…?」
「…やだ私、貴女が男だったら好きになっていたかもしれないわ」
赤く染まった頬に手を添えてうっとりと呟いたリリーに、スズネは困惑しながら緊張を解すように折れた羽ペンをずっと撫でていた。
かっこいいと思われているというのは理解できないけれど、とりあえず嫌われている訳では無いことが分かっただけでも良しとしよう。
スズネはホッと胸を撫で下ろした。
「残念ながら寮は違うけれど、私と友達になってくれるかしら…?」
「…うん、よろしく」
「リリーって呼んでね、スズネ!」
そう言ってニッコリ微笑むリリーを、スズネは少し眩しそうに目を細めて見ていた。
「あら、魔法薬の勉強?」
「うん、苦手なんだ。日本じゃこんな風に調合したりはしなかったし」
「私、魔法薬学は得意な方だから。何か分からないことがあったら何でも聞いて?」
「ありがとう。…リリー」
「その代わり日本のこと色々と教えてほしいわ。日本の魔法学校ってどんな感じなのかとても興味があるの!」
ホグワーツへ来て初めての友達は、同じ赤色を持つ笑顔が素敵な女の子だった。
(同じだけど正反対なわたし達)
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