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あったかい場所 [ 2/38 ]



「ピーブズ、つかまえた」
「ぐへ!おまえ女のくせに力強すぎだろ〜!」


ホグワーツ城の人気の少ない長く広い廊下で、ゴーストであるピーブズと鬼ごっこをして遊ぶ少女。
スズネに思いっきり突進されたピーブズは顔面から地面へ転がり、それでも愉快そうに笑いを零していた。

ゴーストに触れることができるのを彼女が知ったのは、日本の魔法学校に入学してから一週間が過ぎた頃。
ホグワーツに棲みつくゴーストは普通の外見をしているが、日本のゴーストは本当にただの日本の幽霊だ。

食事をしている時に髪が長い血だらけの女がテーブルからヌッと顔を出してきて、驚いて咄嗟に殴ったら、その幽霊に当たり気絶させてしまったという珍事件がありスズネはゴーストに触ることができると知ることとなった。

そして日本の幽霊は彼らに触れると分かった瞬間に、恐れ戦いて近寄ってこなくなってどっちが幽霊なんだか分からないという状態だったのだが。

比べてホグワーツのゴーストは興味深々と感じで逆にウヨウヨと寄ってくる。

ホグワーツ、面白いな。
スズネはピーブズの上に乗っかりながら口角を上げた。
その時、廊下に怒鳴り声が響く。


「ピーブズ!スズネ!騒々しいですよ!」
「あ、マゴナグ先生」
「マクゴナガル、です!」


ピーブズと騒ぐスズネを一喝したミネルバ・マクゴナガルは、こめかみを押さえながら杖を振る。

ギュンとピーブズから引き離されてマクゴナガルの足元に転がったスズネは、キョトンとして彼女を見上げた。

その紅い瞳に、マクゴナガルはヒュと息をのむ。

ダンブルドアが日本から受け入れた少女がきてはや1週間。
東洋人は若く見えるというが、スズネはホグワーツの同学年の生徒よりも大人びて見えるときがある。今がまさにその時だ。

『わしらはあの子の家族同然じゃ。あの子を見守り、正しい道へと導いていかねばならん』

ダンブルドアの言葉を思い出し、マクゴナガルは深呼吸をした。

恐れを抱いてはいけない。
彼女は、あの人とは違うのだ。

マクゴナガルはスズネを立たせると、午後は3年生の授業に必要なものを買いに行くことを伝えてその場を後にした。




■■■



「スズネ、逸れないようになさい」


そう言って自分の手を握るマクゴナガルに、スズネは戸惑いながらもその手をギュッと握り返した。

誰かと手を繋ぐなんて初めてのことで。
そもそも誰かに触れることすら億劫で。
自分が避けなくても周りが自分を避けるから人の暖かさにまともに触れたのは今が初めてだった。

ダイアゴン横丁の人の波を物ともせずスルスルと歩くマクゴナガルの姿は、とてもかっこよくて素敵な魔女に見える。


「最初は制服を見ます。…スズネ?」


ぼーっとマクゴナガルに見とれていたスズネは彼女に名前を呼ばれてハッとすると、小さい声で呟いた。


「今なんと言いましたか?」
「…マクゴナガル先生、かっこよくて素敵」


恥ずかしいのか、スズネはそう言い放つとプイッとそっぽを向く。
そんな彼女の耳は真っ赤に染まっていた。

その言葉の意味を少し遅れて理解したマクゴナガルは、驚きと嬉しさで頬を緩ませるとスズネの頭を優しく撫でる。


「かっこよくて素敵な魔女の家族なのですよ、スズネ。自信を持ってよく学び、立派な魔女になりなさい」


それを聞いたスズネが泣きそうになったので、マクゴナガルは苦笑しながらまた彼女の頭を撫で続けた。


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