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ハロウィーン [ 7/38 ]



迎えた10月30日のハロウィーン当日。
まだ陽も昇らない午前4時に目を覚ましたスズネは、自室に備え付けられたキッチンで唸り声を上げていた。


「作れる、かなあ…」


日本にいた頃はハロウィーンなんて行事はあってないようなものだったが、どうにもこちらのハロウィーンは大々的なイベントになるらしい。

そして今なぜこんなに早起きをしてなぜこんなにも悩んでいるかと言うと、先日リリーから「変な悪戯されないようにきちんとお菓子を準備しておきなさいね!」とすごい気迫で言われたからだ。

お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。
これは日本でもハロウィーンになればよく聞く言葉だったが、まさかお菓子をあげなきゃ本当に悪戯をされてしまうのだろうか。

もしそうだとしたら、仮にも魔法使いの人からの悪戯なんて…と考えると大変な目に遭うのが安易に想像がつく。


「クッキーが簡単って言ってたっけ」


孫はたまた娘のように可愛がっているスズネから泣きつかれたダンブルドアは、地下廊下の厨房の外にある絵画の梨をくすぐれば屋敷しもべ妖精のいるキッチンへと行くことができると助け舟を出した。

特別手作りである必要もなく、ただ菓子類を分けてあげればよかっただけの話だがスズネの作るものを食べてみたいというダンブルドアの策略でもある。

そしてその策略に乗り、クッキーが一番簡単だと教えてくれたしもべ妖精の助言もあり、それを作るのに必要な材料をお裾分けしてもらったのだ。


「よし、頑張ろう」


料理はてんでダメなスズネは腕捲りをして気合を入れた。

彼女は日頃お世話になっている先生方や、友達であるセブルスとリリーにもこれを良い機会に何かお返しをしたいとも考えていた。

誰かに何かを作るのもあげるのも、初めてだ。

どこかワクワクする気持ちを胸に覚えながら、クッキーのレシピが書かれてある羊皮紙(しもべ妖精がくれた)を食い入るように見つめて作業に取り掛かったのだった。




■■■



朝起きた時から鼻をかすめるカボチャの匂いに顔をしかめながら大広間へ向かったセブルスは、更に強くなったその香りにうんざりするように溜め息を吐いてスリザリンテーブルへと腰を落ち着けた。

周りを見れば様々な仮装をした生徒たちが「トリックオアトリート」という言葉を口にしていて、悪戯をする者やされる者、菓子をあげてそれを回避する者などで溢れる大広間はいつもの数倍騒がしい。

バカらしい、と鼻で笑ったセブルスはとっとと食事を済ませてこの喧騒から抜け出そうと決めた。
カボチャ一色の食事におずおずと手をつけたところで、ふと気付く。

そういえばいつも自分よりも早く食事をしている彼女、スズネの姿が今日は見当たらない。
まさかここへ来る途中に、取り巻き連中にでも捕まって悪戯され放題になっているのでは…。


「……っ!」
「きゃ!…ちょっとセブ、いきなり立たないでよビックリしたじゃない」


ガタリと音を立てて勢いよく立ち上がったセブルスの近くにはいつの間にかリリーがいた。
彼が「なんだリリーか」と息を吐くように言うと、失礼ねとリリーは眉間に皺を寄せた。


「あら、スズネはまだ捕まってるのね」
「…やっぱりそうなってるのか」


リリーがスリザリンテーブルを一通り見まわした後に発した言葉で、先程自分が思っていたことは間違いではなかったと納得する。

性別年齢問わず人気のある彼女のことだ。
きっともみくちゃにされているのだろう。


「ふふ。スズネったら可愛いのよ?朝一で私に駆け寄ってきて手作りのクッキーをくれたの。恒例の言葉を言う前にくれたから拍子抜けしちゃったわ。あんなにカッコイイのにクッキーだなんてギャップ萌えよ、萌え。あ、もちろんセブももらったでしょう?」


余程嬉しかったのか、リリーは頬を赤らめて興奮したようにスラスラと言葉を並べていった。


「………っ」


セブルスはズキンと痛んだ胸を咄嗟に押さえる。

クッキーをもらうも何も、今日は一度もスズネを見かけてもいないし会ってもいない。
彼女とは少なからず仲が良いと、友人だと思っていた。
…そう思ってたのは、僕だけだったのか。

セブルスの変化を感じ取ったリリーは緩んでいた頬を引き締めて、彼の顔を覗き込んだ。


「…セブ?」
「僕はもう行く」


もらっていない、と言うのは何故か悔しかった。

自分を心配そうにみるリリーの目も、今は同情と慰めにしか見えなくて申し訳ないと思いながらも彼女を置いて足早で大広間を去る。

勝手に仲が良いと思い込んで、勝手に期待して、勝手に落ち込んでいるだけの自分が嫌になった。
スズネからたかがクッキーひとつもらえなかっただけで、何故こんなにも気落ちしているのか。

考えても答えは出ず、募るイライラに任せて廊下を飾るカボチャに八つ当たりするようにそれを粉砕させた。


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