夢と友達 [ 28/38 ]
なんとかダイアゴン横丁まで戻れたわたしを迎えたのは、般若顔でわたしの荷物を抱えているミネルバで。
「まさか貴女がここまでお転婆だとは思いませんでした!スリザリン5点減点です!」と、こっぴどくお叱りを受けながら無事に(?)ホグワーツへと帰ってきた。
まあ、ミネルバに怒られるのくらい銀行の鍵を失くすよりかはだいぶマシだし良しとしよう。
あ。スリザリン生の人達、点数減らしてごめんなさい。
「リリーは赤で、セブルスは緑。レギュラスは…」
自室に戻り、買ったプレゼントのラッピングをしながら今日のことを考えていた。
気がかりなのは、ノクターン横丁で出会った銀髪の男の人。
わたしを見てすごく驚いていて、いきなり馴れ馴れしくしてきたかと思えば何の反応もなくなったりと変なひとだった。
赤眼のせいで注目されたり驚かれたりするのには慣れていたけれど、あの人の反応はどこか可笑しかった。
思わず杖無しで魔法使って逃げてきちゃったけれど、あれって大丈夫なのかなあ。
未成年が外で魔法を使うのは禁止されてるから大丈夫なことではないのだろうけど、それについてミネルバからお咎めはなかったしバレなきゃいい…よね。
「―…よし、完成!」
後は手作りお菓子の方だ。
わたしは買ってきたばかりのレシピ本を取り出して、ベッドへ寝転がる。
はあ、と大きく息を吐いてふと自分の指先を眺めた。
マキシマで強化されたものとはいえ、ルーモスだけであんなにも強力な光になるなんて予想外だった。
そしてあれは、杖で魔法を使う時よりも何倍もの魔力を以て発動していたのだ。
「んー…」
魔力を制御することも大切だけど、自分の中の魔力を少なくさせる方法とかはないものか。
魔力を抽出したりとか…できないのかな。
しばらく色々考えてはみたけど、魔力がどうのとか理屈や論理が分からなければどうにもならない。
アルバスやミネルバに聞くのもいいけど、たまには図書室に行って自分で調べたりしてみよう。
「ふあぁ…」
盛大な欠伸をかまして、仰向けに体勢を変えた。
今から寝たらきっと夕飯に間に合うようには起きられないだろうと思ったけれど、横になってしまえば自然と瞼は閉じていく。
セブルスの声、聴きたいな…。
何故そう思ったのか分からないまま、わたしの意識は睡魔によって沈んでいった。
***
夢を見た。
日本にいる時は3日に1回は見ていたのに、ホグワーツに来てからは一度も見てなかった夢。
2人の男女が暗闇に佇んでいて、フードを被っているから顔は見えない。
『共になることは叶わない。ならばせめて、』
『ええ、そうね。せめて…』
そう言って抱き合った2人は、そっとお互いの両手を重ねた。
合わさった2人の手から、暗闇を照らすほどの光が輝き出す。
『私達の愛の証を』
『僕達の魔力と共に』
『−…レフェロ』
2人の言葉が重なると、手から漏れ出していた光が放たれて闇を取り払い、真っ白な空間が広がった。
悲しくて、切なくて、嬉しくて、愛おしくて。
たくさんの感情が一気にわたしの中に流れ込んできて、涙が零れる。
そしてわたしがここにいることを分かっているかのように、2人は振り返り、笑う。
『愛してる』
フードの隙間から覗いた片方の瞳は紅く、優しい。
それから2人の姿は光の粒子になり、小さく音を立てて消えた。
パチリとすんなり目が覚めた。
外からチュンチュンと小鳥の鳴き声が聴こえるところをみると、やっぱり夕飯には起きられずに朝まで寝こけてしまったようだ。
「…レフェロ」
夢の中の2人がいつも呟く言葉を、同じように唱えてみる。
誰かの名前?それとも何かの呪文?
あの男女は、わたしと何か関係がある人物なのだろうか。
「夢に出てくるくらいだし…」
身体を起き上がらせてベッドの上で胡坐をかいた。
うーん、と腕組みをして思考を巡らせてみる。
この世に生まれてから今に至るまで、わたしが関わってきた人というのはごく僅かだ。
まず両親はわたしが2歳の時に亡くなったらしいし、それから日本の魔法学校に通うまではずっと施設だった。
赤眼を気味悪がられて施設でも学校でも友達はいなかったし、あと関わりがあるとすれば大嫌いな自称保護者くらい。
片目しか見えなかったけれど、わたしと同じ赤い瞳の人。わたしの知る限りでは心当たりなんてなかった。
『レフェロ』という言葉も、後で図書室へ行って色々と調べてみようかな。
んー、と伸びをしてベッドから出るとたくさんのプレゼントがわたしをお出迎えしてくれた。
「え、…」
サイズ様々、色とりどりのプレゼントの包みが山のように積まれていてしばらくの間あんぐりを口を開けて固まってしまう。
あれ、わたしこんなにプレゼントもらえるほど友達できたっけ。
それに今日って24日だけれど、プレゼントってイヴに贈るものだったりするのかな…。もしそうなら完全に油断してた。
明らかに自分が贈ったプレゼントの数を大幅に超えたその量に、嬉しいけどほんの少しだけ引く。
とりあえず昨夜から何も食べて無くてお腹減ったし、朝ご飯食べてから開封式にして、そのあとにわたしも早くプレゼント贈ろう。
お菓子も作らなきゃならないし。
適当な格好に着替え、伸びてきて邪魔な前髪をピンで留めて、わたしは大広間へと向かった。
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