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近付く聖夜と闇 [ 27/38 ]



買い物を終え、両手に紙袋を抱えて店を出た。

こんなに多くなるなら、直接ホグワーツに送ってもらった方が良かったかなー。
若干の後悔を抱きながら道を歩いていると、チャリと金属音が聴こえて振り返る。


「あー、」


ジーンズの尻ポケットに入れておいたグリンゴッツ銀行の鍵が、床に転がっていた。
ひー、この状態でしゃがむのキツイ。
人の波を避けながら一度荷物を地面におろし、鍵を拾おうとすると。


「え、あ!ちょっと…」


横からサッと出てきた黒い影がそれを咥えて走り去っていってしまった。

銀行の鍵を失くすのは…非常にまずいのではないだろうか。
サーッと背筋が冷えていくのを感じて、わたしは黒い影の招待である猫の後を即座に追った。





***(※視点変わります)



ノクターン横丁はいつ来ても辛気臭く、そして下賤だ。
漆黒のローブを纏い、それと真逆のプラチナブロンドの美髪を揺らしながら優雅に歩く男は嘆息した。

ホグワーツを去年卒業したばかり彼、ルシウス・マルフォイは今や表向きは魔法省職員、裏では闇の帝王の忠実なる部下である死喰い人だ。

今日は自分の父の代わりにノクターン横丁へと用足しに来ている。
本来なら此処を出歩くのであればもっと人気のない道を選ばなければならないのだが、物乞いだらけの細道を歩くのは彼の貴族としてのプライドが許さなかった。

(父上も人使いの荒いことだ…)

早々に父から頼まれた用事を終わらせて早く帰ろう、とルシウスの足は自然と早くなる。


「こらっ、待ちなさい…!」


その時だった。

仄暗いノクターン横丁に実に似つかわしくない、若い女の声がルシウスの耳に入る。
確か後ろからか、とルシウスが振り返ろうとしたがそれは身体に走る衝撃により叶わなかった。

こちらに向かって走ってくる2つの影は、ルシウスが目に入っていないのか止まる気配もなくそのまま彼へ激突したのだ。


「はあ…やっと捕まえた。もう、それ食べられないし食べられたとしても美味しくないんだからね?」


人の身体の上に乗っていることも忘れて、女はベラベラと独り言を喋り出す彼女のなんと無礼なことか。
ルシウスの眉間にグッと皺が寄った。


「−…おい、」
「へ、え…びゃっ!?」


ルシウスが声をかけると、さすがに自分の状況に気が付いた彼女は素早く彼の上から退いて顔を青くさせる。

(やばい、完全に猫にしか目がいってなかった…)

顔を隠すように猫を抱え上げた彼女、スズネは未だ地面に座ったままの男をチラチラと猫越しに見ていた。


「あ、の。ごめんなさい、見えてませんでした…」


スズネが恐る恐る謝罪をすれば、不機嫌そうに細められたアイスグレーの瞳と彼女の真紅が初めて交わる。

途端、ルシウスの目が大きく見開かれることになった。

彼女は、自分の仕える主によく似ている。
黒檀の髪に、何より…血が滾るような炎が燃え上がるような赤い、紅い瞳。そしてその美しすぎる容姿。

思わず息をするのも忘れそうになるほどの衝撃がルシウスを襲っていた。


「…大丈夫、ですか?怪我とかしてないです?」


反応のないルシウスに冷や汗をかきながらスズネは彼の近くにしゃがみ込み、顔の前でヒラヒラと手を振る。

(どうしよう、怒ってたら。変な呪いとかかけられる前に逃げた方がいいのかな)

手を振っても反応無しの彼にスズネは溜め息を吐いて猫へと視線を移すと、猫はニャアと小さく鳴いた。

ルシウスを我に返らせたのは意外にもその猫の鳴き声。
ハッと肩を揺らした彼は、ゴホンとわざとらしく咳払いをしてからローブの汚れをとり立ち上がる。


「―…君は、」


猫を抱えたスズネがキョトンとルシウスを見上げた。
丸くなった彼女の紅い瞳は、いつも鋭く殺意を持つあの紅とは似ても似つかない。
ルシウスは詰まらせていた息を大きく吐いた。


「お嬢さん、なぜこのようなところに?」
「このような…?え、まさかここって」
「ノクターン横丁だが…」


彼の言葉を聞いて、スズネは心の中で悲鳴を上げる。
自分は今ノクターン横丁にいる、というマクゴナガルのお説教は免れないであろう事実が彼女を襲った。

そうと分かれば一刻も早く此処から出てダイアゴン横丁へ戻らなければならない。
スズネは猫が咥えていた鍵を取って、今度は落とさないようにとカバンの中へと仕舞った。


「あの、ぶつかってしまってすみませんでした!」
「…いや、このように美しい女性に乗られるなんてむしろ役得というものだよ」
「あ…は、はい」


早くこの場を去りたいのに、何故かいきなり紳士になり出したルシウスに手を取られて動けなくなったスズネは顔を引きつらせる。

見ず知らずの人に、初対面の人にこんな風に触れられるなんて思わない。
スズネはゾワッと鳥肌が立つのを感じた。


「別れの前に是非、君の名前を教えてくれないかな?」
「…スズネ・ユキシロ」
「愛らしい名前だ。スズネ、今度お茶でも…」


如何かな?と微笑んだルシウスは、顔を赤くするどころか困ったように顔を僅かに歪めるスズネが目に入り驚く。
見た目は男にも見えなくはないが確かに女性であるはずの彼女が、自分に微笑みかけられて照れもしないなんて。

再び固まったルシウスに痺れを切らしたスズネの指先が彼へと動く。
ごめんなさい、と彼女の口が動いたかと思うと…次に紡いだのは呪文。


「ルーモス・マキシマ」
「…、ッ!?」


突如、とてつもなく強い光が目の前で放たれ、目が焼けてしまうのではないかと思うほどの眩しさにルシウスは両目を押さえて蹲った。

目を閉じていてもチカチカと赤い閃光が瞼の裏で光を持ち、とてもじゃないがすぐに目を開けられる状態ではない。


「―………っ」


やっと目を開けられた頃には当然、スズネの姿はなく、ルシウスはフラフラと腰を上げた。

杖無しで強力な魔法を放つ、紅い瞳の少女。
興味を持たないはずがなかった。

思わぬ土産話ができた、とルシウスは口角を上げてまだチカチカする目を擦りながら暗闇に消えた。


(彼女は闇をも惹きつける)


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