近付く聖夜と闇 [ 26/38 ]
クリスマス休暇。
その単語を聞いた時点で何故気付かなかったのか。
ほぼ貸切状態のスリザリンの談話室で、ソファに寝転がってウトウトしていたらハッと気付いた。
「もうすぐクリスマスかあ…」
サンタなんてものは信じてない。
というよりも生まれてこの方、今までプレゼントなんてもらったことは一度も無かった。
サンタ=親なんだし、そりゃ親のいないわたしにプレゼントなんか贈られるはずもないか。
そこまで考えて思うけど、わたしってけっこう荒んでる。
わたしがもらえるもらえないはさて置き、重要なのはリリー達にあげるクリスマスプレゼントを買いに行かなければならないということだ。
「よし、困ったときのアルバス頼みだ」
ソファから立ち上がり、暖炉の火を消して、足を温めていたブランケットをマフラー代わりに首に巻く。
一気に暖を失くしていく談話室に身震いさせながら、校長室へと向かった。
***
外出の許可は意外とすんなり下りた。
というのも、アルバスは今日忙しいみたいでちょうどダイアゴン横丁に用事があるというミネルバの付き添いで許しが出たのだ。
ホグワーツに編入する前にミネルバと来た以来ここに来ることはなかったけど、相変わらず人がたくさんいる。
人の多さで言えばホグズミードよりもこっちの方が多いんじゃないだろうか。
「スズネ、私は少し用事を済ませてきます。いいですか?絶対にノクターン横丁の方へは行ってはなりませんよ」
「分かった。この辺のお店だけ見てるよ」
心配そうに念を押してくるミネルバは、わたしを何度も振り返りながら雑踏へと消えていく。
これじゃ付き添いの意味あまりないんじゃないかなと思ったけれど、ミネルバも仕事だし邪魔になるくらいならここで大人しく買い物してる方がいいよね。
1人になったわたしは、色んな人からの向けられる視線に多少居心地悪くなりながらも手近な店へと入った。
リリーには綺麗な翡翠色のヘアピンと硝子細工が神秘的なアクセサリーボックス。
セブルスには質のいい羽ペンと銀で出来た栞。
レギュラスのはすごく迷ったけれど、クイディッチが好きみたいだったからスニッチ型の小さな置時計にした。
アルバスにはモコモコの靴下とモコモコの帽子、ミネルバにはティーセットと紅茶の茶葉。
どれも安い物ではなかったけれど、それでもすごく良い買い物ができた気がする。
ちなみにお金は両親が遺してくれた貯金から毎月決められた額が送られてくるようになっていて、使う機会もなくずっと貯めていたもの。
アルバス情報によればわたしの自称保護者は金遣いが荒すぎて今は使えないように厳重に制限されているのだとか。ざまあみろ。
「…あ、」
目的の物も買えたしあとはミネルバを待つだけだ、と店内をフラフラ見て回っているうちにふと思い出したことがある。
ブラック、ではなくてシリウスにまだあの時の謝罪ができていないこと。
そしてホグズミードまで連れて行ってくれた彼ら4人へのお礼をしそびれていたこと。
クリスマスプレゼント、謝罪とお礼を兼ねるいい機会かもしれない。
勿論直接伝えようとも思ってはいるけれど、面と向かってはなんだかこう…少し気恥ずかしいというかなんというか。
「お菓子とか、?」
呟いて横を見れば棚いっぱいに色んなお菓子が陳列されている。
んー、買うのは簡単だけどそれできちんと誠意が伝わってくれるかな。
同じお菓子なら手作りでもいいかもしれない。この際だし、クッキー以外のお菓子を作れるようになってみたいのもあるし。
ふと目に入ったお菓子特集の雑誌の表紙。
「ガトーショコラか。…おいしそー」
決めた。これ作ってみよう。
そうと決まればレシピ本やら材料やらも買いに行かないといけない。
とりあえずその店から出てキョロキョロと見渡してみるがミネルバらしき姿はない。
まだ時間がかかるんだろう。
本屋と材料が買える店はここから少しだけ離れてるところにある。
ミネルバの言うノクターン横丁の方面ではないと思うし、ちゃちゃっと買い物を済ませて戻ってこよう。
「ミネルバは怒ると怖いからなあ」
この間、悪戯仕掛人の彼らがミネルバに説教されてるところを見たのを思い出して思わず笑いを零した。
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