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大切に思うこと [ 23/38 ]



***


ある昼下がり。

スズネは禁じられた森の近くの湖の畔で、パシャパシャと水に足を浸して遊んでいた。
水面が凍ってるかと思ったけど、とてつもなく水が冷たいというだけでまだ氷にはなっていない。


「はあ…さむい」


今日はセブルスが調べ物やら勉強に忙しそうにしていて、リリーは姿が見つけられなかった。
こうして1人でのんびり過ごす時間も嫌いじゃないけれど、やっぱりあのふたりと一緒にいる時が1番だ。

それなのに。
クィディッチの試合が終わったのにも関わらずスリザリンとグリフィンドールの仲は相変わらず悪く、それはスズネとリリーにも影響を及ぼしていた。

スリザリン生のスズネと仲良くしていることがリリーの同寮の友人の目についたようで「しばらくは一緒に居られないかも」とリリーからの梟がスズネに届いたのが今朝のこと。

(…友達と仲良くするのに寮なんて関係ないよ)

ぷくりと頬を膨らませたスズネがバシャッと勢いよく足を振り上げれば、水飛沫が太陽の光に照らされてキラキラと宙に輝いた。

その時。


「ー…おっと」
「…っ、だれ?」


後ろから男の声が聞こえ、驚いてすぐに立とうとしたが冷たい水に浸っていたせいで足の感覚が無くなり結局腰を上げることが出来なかった。


「この湖には大王イカが棲んでいるから危ないよ、ユキシロ」
「ルーピン、」


スズネが顔だけ振り向かせるとそこには、白い息を荒く吐き出しているリーマスが立っている。

彼の顔を見て、スズネは僅かに目を見開いた。
傷痕のある顔は青白く血色を失い、目の下には深い隈が出来ている。

明らかに病人の面をしていたのだ。


「…ルーピン、具合悪いならこんな寒いところより城の中にいたら?」
「いいんだ。…ちょっと頭を冷やしたくてね」


困ったように笑ったルーピンは自分に防水呪文を唱えると、スズネの隣にゆっくりと腰を下ろした。

そういえば、いつも一緒にいる残り3人がいない。
そのことに疑問を持った彼女だが、問うことはせずに一度上げた足を再び水の中へと戻した。

パシャリ、と静かに水温が鳴り響く。


「…ユキシロは、」
「なに?」
「誰にも言えない秘密とか、ある?」
「え、ないかな」


あっけらかんなスズネの回答に、リーマスは拍子抜けしながらも「そっか…」と呟いて笑いを零した。

なんでこんなにも弱々しいのだろう。
リーマス・ルーピンという人物がどういう人なのかは仲良くもないし分からないが、今の彼は誰がどう見ても弱っている。

(大丈夫かな、この人…)

今にもこの湖に投身自殺でもしそうだ。
スズネは鼻をズビと啜りながら、喋らなくなってしまったリーマスの様子をチラチラと気にしていた。


「仮にさ、ユキシロが誰にも言えないような秘密を持っていて君はそれを友達に打ち明けたいと思ってる…だけどそれを打ち明けてしまったら嫌われてしまうかもしれない。そんな秘密を持っていたとしたら?」


リーマスはボソボソと話すと、膝を抱え込んで縮こまってしまう。

(ユキシロに何聞いてるんだ僕は…)

いきなりこんな質問をされれば彼女だって困るだろうし、不審にも思うだろう。
だが聞いてしまったものは後には引けない。

リーマスはスズネからの反応を待った。


「わたしには、そんな秘密がないからその質問に答えるのは少し難しい」
「…そ、そうだよね。ごめん、忘れて」
「でも、逆の立場だったらっていうのには答えられるよ」


スズネの真っ赤な瞳がリーマスを貫く。
真っ直ぐな言葉と、その射抜くような視線にリーマスは小さく肩を揺らした。


「もし仮に…そうだな。例えばね?セブルスが実は…人狼でしたって本人から打ち明けられたとしても、」
「……っ!?」
「わたしにとってセブルスが大切な友達ってことが変わることはないなあ」


リーマスはこれ以上ないほど大きく目を見開いて驚きを隠すことなく、そう言い放ったスズネを凝視する。


「な…なんで…人狼、?」
「この間のDADAの授業で人狼についてのレポートの宿題が出たのを思い出して、それで」


例えに人狼を出してきたこと。
そして何より、友人が人狼であっても大切な友人には変わりはないというスズネの言葉。

そのふたつに驚き過ぎて、リーマスはしばらく言いようのない感情で心乱されていた。
バクバクと激しく波打つ鼓動に息苦しさを覚えるほどだった。


「…大丈夫?」
「っう、うん。平気…だよ」


何故か、泣きそうだった。
リーマスはグッとマフラーを顔の半分を隠すくらいまで引き上げて、そのまま立ち上がる。


「ルーピン?」
「…セブルスが羨ましいよ。君にそこまで大切に思われてるなんて」


リーマスの言葉にキョトンとしてスズネは彼を見上げた。
それから、彼女はふと目と口を緩ませる。


「何言ってんの?ルーピンにもいるじゃん。大切に思ってくれてる友達が3人もさ」


スズネがそう言うと、リーマスはポロリとその瞳から涙を零し…そのまま彼女に背を向けて駆け足でその場を去ってしまった。


「…え、わたしなんかまずいこと言った?」


それからしばらくして。

湖の近くにいたスズネを見つけたセブルス、そして何故かレギュラスにまで「こんな真冬に素足を水に浸して遊ぶなんてアホか/アホですか」と怒られ城の中へと連れ戻された。


「セブルス、レギュラス」
「…なんだ」
「どうしましたか?」

「わたし、人生で初めて男の人を泣かせちゃったかもしれない」
『………は?』



(彼女の言葉は心を溶かす)


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