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魅了された弟 [ 21/38 ]




両手に数冊の本を抱えている彼は、スズネの知らない人物だった。


「やはり勇気も誇りもなく勉強しか取り柄のない下等寮生は、哀れなものですね」


彼の吐き捨てた辛辣な言葉が、独り言なのか自分に話しかけられているものなのか分からなかったスズネは困惑しながら彼を見ていた。


「ああ、先輩のことではありません。貴女は誇り高きスリザリンであり、そして魔力に溢れた美しい人ですから」


初対面であるはずの彼からいきなり褒めちぎられたことを不可解に思いながら、スズネはとりあえずと小さくお礼を述べる。


「あの、君は…」
「僕はレギュラス・ブラック。スリザリンの1年です」
「…ブラック?」


グリフィンドールの彼と同じ苗字だ。
スズネの思っていることが分かったのか、レギュラスは不快そうに眉間にグッと眉を寄せた。


「ブラック家の長男でありながらグリフィンドールに入ったアレは、まさしく僕の愚兄です」


残念ながら、と吐き捨てた彼はまだあどけなく幼い顔立ちをしているのにも関わらず兄であるシリウスよりもずいぶん大人びて見える。

きっと長男である彼があんな感じだから、弟である彼は色々と苦労しているのだろうとスズネは思い込むことにした。


「それで、ブラックくんは…」
「レギュラスです」
「…レギュラスは、わたしに何か用あった?」
「いいえ、何も。通りすがりに先程の現場に居合わせたので、見てただけです」


兄のシリウスとは似ても似つかない寡黙さ。
少しはこの落ち着きをお兄さんにも分けてあげてほしいくらいだね、とスズネは心の中で苦笑する。


「あ、さっきの出来事を見てた君に聞きたいんだけど。あの人たちは一体、わたしの何に怒ってたのか分かる?」
「…は?」
「え、なに…」
「本当に分からないんですか?」


コクリと小さく頷いたスズネに、呆れたように大きく溜め息をついたレギュラスはビシッと彼女に人差し指を向けた。

ビクッと肩を跳ねさせたスズネは「人を指差すのは…」と彼に聞こえるかどうか分からないくらいの小声で呟いている。


「さっきも言いましたが、貴女は美し過ぎるんです。女性でありながら男性にも見えるその魅力的な容姿に、どれほどの人が惹きつけられているのかご存じですか?」
「…ファンクラブが出来てるとかなんとか…?」
「はあ、いいですか?あの人達は彼女や好きな相手がことごとく貴女を好きになってしまい、自分たちが振られたのを先輩のせいだと八つ当たりしていたんですよ」


自覚がないなんてどれだけタチが悪いんだこの人は。

目を見開いて驚いているスズネを前に、レギュラスはやれやれと肩を竦めて見せた。


「意識して何かしてるわけでもないんだけど…どうすれば、」
「まあ…とりあえず、気にしなくていいと思いますよ」
「いいのかな…」
「酷くなるようであれば寮監もしくは校長に直訴でもすればいいかと」
「そ、そっか」


確かにダンブルドアそれを言えば、自分で思うのも変な話だけど溺愛してくれている彼のことだ、すぐにでも何かしらの方法で対処してくれる気がする。

それに容姿が原因だと言われても顔を変えるわけにもいかないし、レギュラスの言うように気にしないというのが一番なのだろう。


「ありがとう、レギュラス。色々教えてくれて」
「大したことはしていません」
「はい。お礼に飴あげる」
「…あ、りがとうございます」


強引に手に乗せられた小さな飴玉を眺めるレギュラスは、ギュッと本を抱え直した。

柔らかく細められたスズネの瞳に見つめられて、彼の頬はほんのり赤く染まり出す。


「…くれぐれも穢れた血に影響されないようにしてくださいね」
「ん、?」
「でもユキシロ先輩なら僕は、純血でなくとも気にしません。きっと」
「けがれた、って?」

「―…僕も、ユキシロ先輩に魅せられた1人なので」


レギュラスは緩く微笑んで背を向け、その場から立ち去る。

残されたスズネはレギュラスの言葉の意味をしばらく考えていたが、校内に鳴り響く予鈴に邪魔されて慌てて城の中へと入っていった。



(彼女の真紅に運命を感じた)


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