魅了された弟 [ 20/38 ]
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どうしてこんなことに。
自分に杖を向けるレイブンクローの男子生徒3人を目の前にして、スズネは彼らにバレないよう溜め息を吐いた。
先程別れたばかりのセブルスに今すぐ戻ってきてほしいと心の中で懇願するも、その願いが届くはずもない。
「おい、ユキシロ。俺の彼女に何しやがったんだ!」
「僕の彼女もだ。何故女性の君なんかに…」
「オレずっと好きだった奴がいたのに…!手作りのクッキーとやらに愛の妙薬でも盛ったんだろ!」
3人が口々に言い放つと、スズネはキョトンと目を開いて首を傾げた。
話を聞く限りでは、どうやら彼らの彼女や好きな女の子に何かをしたらしいが生憎と身に覚えがない。
ハロウィーンの時に手作りクッキーを配った覚えはあるけれど愛の妙薬なんてもの入れてないしなあ、とスズネの頭の中は疑問符だらけだ。
「…誰かと間違えてない?」
「黒髪に赤眼ってホグワーツにはおまえくらいだろ!」
「とぼけるのもいい加減にして欲しいな」
「おまえに取られるくらいだったらオレが先に彼女に愛の妙薬でも使えばよかった…!」
これじゃまともに話も聞いてもらえなさそうだなぁ。
スズネは大きく溜め息を吐いた。
彼らがこれだけ怒るほどのことをしてしまったのは事実なのだろうが、せめて何をしてしまったのかくらいは教えてほしいところだ。
「あの、何かしちゃったならごめんなさい。これからしないように気を付けたいから、わたしが何をしてしまったのか教えてほしいんだけど…」
スズネがそう伝えるが、今度は彼女への暴言を加えて彼らはまた先程と同じようなことを吠えた。
ああ、もう。
「…めんどくさ」
スズネの小さな呟きは、その場に静寂をもたらした。
不機嫌そうに歪む彼女の表情。
そしてその黒い前髪から覗く赤眼は、まるで鋭利な刃物を突きつけるかのように彼らを睨みつけている。
ビクリと身体が震えて全身に恐怖が纏わりつくような感覚に、彼らは凍りついたように動けなくなった。
「ぃ、インカーセラス…!」
一番先に我に返った1人がスズネへ杖を向けて呪文を唱える。
スズネは、避けることも防ぐこともしなかった。
杖の先から出た鎖は、彼女に向かって勢いよく飛んでいく。
しかしそれは杖すら持っていないはずのスズネに当たることなく、彼女の目の前で何かに弾かれるようにバチンと音を立てて消えてしまったのだ。
「な、!?どういうことだ!」
彼らは驚きの声を上げたが、一番驚いていたのは他でもないスズネ自身。
自分と鎖の間に現れた青白い何かが、鎖を弾いて消滅させてしまったのを確かに見た。
プロテゴにも似ていたが、まさか自分の意識とは無関係に、自分の中の魔力が盾の魔法を発動させた?
自分のことなのに分からないことだらけで嫌になる。
スズネが息を吐いて俯かせていた顔を上げれば、先程まで目の前にいた3人は忽然と姿を消していた。
「…あれ?」
もしかして怖がらせちゃったかなあ、とスズネが苦笑する。
城の中へそろそろと戻ろうとするスズネだったが、そんな彼女を誰かの声が引き留めた。
「ユキシロ先輩」
後ろから聞こえたその声にスズネが振り返れば、短い黒髪を風になびかせたスリザリンの男子生徒が1人。
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