仲直りの一歩 [ 14/38 ]
それから一週間後の土曜日。
スズネはセブルスやリリーと共にホグズミードへは行かず、校長室にいた。
一緒に行けないことを伝えた時の2人の残念そうな顔(リリーは特に)を思い出すと、泣きたくなる。
「アルバスのばか。きらい、あほ」
ソファに仰向けで寝転がり、クッションに顔を埋めるスズネのくぐもった声がその近くにいたダンブルドアを非難する。
スズネがホグズミードへ行けなかった理由。
それは彼女の保護者となっている人物に、許可証へのサインをもらえなかったからだ。
その保護者は日本にいて、スズネがホグワーツへ編入となる前にダンブルドア直々に必要書類へのサインをもらいにいったのだが。
保護者は相当意地が悪く、スズネのことをよく思っていなかったためにホグズミードへの外出許可証にだけはサインをしてくれなかったのだ。
ダンブルドアへの非難は八つ当たりだと分かってはいたけど、楽しみにしていた分の落胆がひどくて抑えきれなかった。
「もういいよ、あんな奴わたしの保護者じゃなくて。アルバスかミネルバがなってくれたらいいじゃん」
今だって日本に住んでるわけではない、それにこれからだってあんな所に戻る気なんて更々ない。
両親が亡くなって即座に施設に入れさせられたし、両親の貯めていたお金だって私利私欲のために使うような奴を保護者だなんて思ったことなんて一度もなかった。
わたしという人間を手放せば金が入らないと思ってあのクズは保護者を名乗り続けているのだろう。
スズネはクッションを掴む手に力を込めた。
「大丈夫じゃ。今は相手方が粘っていて長引いているが、来年にはわしがスズネの後見人になることができるじゃろう」
「…本当に?」
クッションからチラリと赤い瞳が覗く。
ダンブルドアが微笑みながら頷きスズネの頭を撫でれば、彼女の魔力によって室内をそよいでいた風が止まった。
その程度で済んでいるのは、言わずもがなスズネとダンブルドアが行っていた魔力コントロールの鍛錬の成果だろう。
「はあーあ、暇だし。ピーブズとでも遊ぼうかな」
溜め息を吐きながら立ち上がり、校長室を出て行こうとするスズネを呼び止めたダンブルドア。
「ピーブズなら、4階の廊下で見た気がするのう」
行ってみたらどうじゃ?と悪戯っ子のように笑うダンブルドアの様子に首を傾げながらも、スズネは彼の言う場所へ行ってみようと決めて今度こそ校長室を後にした。
***
今日は授業のない土曜日ということもあり、学校内はそれぞれ好きなことをして過ごす1・2年生たちが多く見受けられる。
ホグズミードへ行くつもりだったスズネは私服のまま校内を歩いていた。
そのせいでいつもより多く向けられるようになった視線に居心地が悪くなりながらも、途中話しかけられたりもしたがやっと4階へと辿り着く。
「ピーブズー」
人気のない4階の廊下でゴーストの小男を呼んでみたが、自分の声が響くだけで人の気配すら感じられなかった。
そもそもダンブルドアが4階でピーブズを見たからって、彼がずっと4階に留まっている可能性は低いだろう。
それを考えるとなんだか上手くこの場所へ誘導されたような気がしてならない。
「、おや?」
壁に背を預けてこれからどうしようかと考え始めたスズネの耳に入ってきたのは、どこかで聞いたことのあるような陽気な声。
その声のする方へ視線を寄越したスズネは、視界に映る4人の人物にあからさまな動揺を見せた。
「やあ、ユキシロ」
「…どうも」
あの中庭でのことなんかまるで気にしてないかのようにごく普通に話しかけてくるジェームズに、スズネはどう反応すればいいのか分からなくなる。
本人たちが気にしていないのならここで話を掘り返して変な空気にさせてしまうのも気が引けたし、だけど傷を負わせてしまったことは謝りたい。
そんなスズネの葛藤など露知らず、彼らは至って普通だった。
「アー、君がそんな顔してる理由ってこの間のことかい?」
「…そんな顔?」
「眉間にシワ寄せてる、まるでスニベルスみたいなブサイクな顔」
彼女の問いに答えたのはシリウスだ。
女の子になんてこと言うんだ、とリーマスとジェームズにまで叱られている。
ブサイクと言われて別に嫌だとも何とも思わなかったスズネだが、彼の口から聞く『スニベルス』は何度聞いても胸糞悪いと更に顔を歪めた。
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