想う気持ちと変化 [ 11/38 ]
スズネがダンブルドアに連れて行かれた後、セブルスは呆然と2人の消えた方を見つめていた。
彼女の魔力によって引き起こされた突風により所々に傷を負った悪戯仕掛人の彼らも、地面に座り込んだまま何も言葉を発さないでいる。
「グリフィンドール20点減点。1人ずつです」
その静寂を破ったのは、グリフィンドール寮監であるマクゴナガルの厳格な声音だった。
誰より先にハッと我に返ったのはジェームズだ。
「80点も減点?マクゴナガル教授殿、僕たちを見てください」
「あなた方が傷だらけなのはいつものことではありませんか?ポッター」
「…今回は違う。俺たちはユキシロにやられたんだ」
実際、自分たちはセブルスには危害を加えたがスズネには何もしていない。
しかし彼女は自分たちを魔法で攻撃してきた事実があったからこそ、グリフィンドールだけが減点されるのは納得がいかなかったのだ。
「そうされる原因があったのでしょう?スズネは何も無しに人を傷つけるような子ではありません」
マクゴナガルは自分の寮生である彼らにそう言い放ってからハッとする。
いつでも生徒にはみな平等にしてきたが、自分の娘のように思っているスズネにはどうにも贔屓目で見てしまっていたからだ。
思わず自分を叱責したくなったマクゴナガルだが、彼らが反論してこないところを見るに先程言った言葉に間違いはないのだろうと息を吐いた。
「…チッ」
シリウスは頬の傷をから滲んでいる血を手の甲で強引に拭って、大きな舌打ちをする。
減点されている彼らを見て当然の報いだと、セブルスは忌々しげにジェームズとシリウスを睨みつけていた。
そして、スズネの魔法によって作られた植物の壁を無理やり打ち破った時にできた傷に視線を移して血の滲む手の平をグッと握る。
「Mr.スネイプ。あなたも怪我を…」
「僕は平気です。それよりスズネは、」
「彼女は大丈夫です。きっとダンブルドア先生と校長室にいるでしょう」
校長は、ダンブルドアは今回の一部始終を見ていたのだろうか。
もし校長が、スズネがあいつらを傷付けたところしか見ていなかったとしたら完全に彼女が悪者になってしまうのでは…。
セブルスはそこまで考えて、ダッとその場から駆け出した。
彼女は悪くないんだと、悪いのはあいつらなんだとダンブルドアに説明する必要があると思ったからだ。
「廊下は走らないようになさい!」
走り去るセブルスの後ろ姿にそう伝えてから、マクゴナガルは自分の寮生である4人に長い長いお説教と罰則を言い渡してから彼女も中庭から去っていった。
***
校長室に着くと、ダンブルドアはスズネの背中を撫でて落ち着かせながら彼女のためにティーセットを用意する。
「アルバス…ごめん、なさい」
「経緯は知っておるよ。君が謝ることではない」
ダメだと分かっていたのに、止められなかった。
自分の指先に灯る炎に催眠術のように思考を囚われて、溢れる魔力で彼らを傷つけようとしてしまった。
ピシリ、と校長室の窓にヒビが入る。
それはスズネの感情の乱れにより増幅した魔力が、彼女から溢れている証拠だった。
ダンブルドアはなるべく刺激しないように慎重に言葉を選びながら、彼女へ向き合って優しく言葉をかけた。
「スズネ、君の魔力はとても強力なものじゃ。君の為にもこれからはその魔力をコントロールできるようにしていかなくてはならんの」
「…はい、ごめんなさい」
「しかし君は間違ったことをしたわけではない。人の為にあそこまで怒れる君は実に心優しい子じゃ」
「でも…、」
嫌われたかもしれない。
怖がられて避けられてしまうかもしれない。
…また、独りになってしまう。
スズネは、それが不安で仕方なかったのだ。
「校長!ダンブルドア校長…!」
その時、遠くに小さく響いてきた声にダンブルドアとスズネは顔を見合わせた。
スズネはその声をよく知っている。
怖い、とポツリと呟いて震えている手をギュッと握った彼女の手を引いたダンブルドア。
「わしの後ろにいなさい」
ニッコリ笑うダンブルドアに頷いて、スズネは彼の背中にしがみつきながら後をついて校長室を出た。
「おお、セブルス。どうしたんじゃ?」
「スズネは?…まさか退学ですか?」
「んー、そうじゃのう…」
「…っあれはポッター達が!スズネは僕のためにしたことです!」
スズネは悪くない先に手を出してきたのはあっちだ、と冷静沈着なセブルスからは想像できないほど必死に訴えかける彼に鼻の奥がツンとしてスズネの目に涙の膜がはられていく。
嫌われてない?怖がられてない?
滲む視界にこんな顔見られたくないとスズネがダンブルドアの服に顔を押し付ければ、それに気付いた校長は微かに笑って彼女のを自分の前へと誘導した。
アルバスのばか、とスズネが呟く。
「スズネ…」
彼女の視界に入ったセブルスは、中庭から急いで追いかけてきたのか髪はボサボサで溶けきらない雪がそこにチラホラ乗っていた。
まだ落ち着かない呼吸は、彼の普段からの運動不足が原因だろう。
「セブルス、わたしのこと…怖くない?」
「…そんな泣き虫、怖くない」
「こ、これは…!セブルスが、わたしのこと悪くないって…」
「…っそ、それは事実だろう…」
「仲が良いのう。素晴らしいことじゃ」
フォフォ、と愉しげにダンブルドアが笑うと。
セブルスの顔がどんどん赤くなっていくのが少しおかしくて、クスリと笑うスズネを恨めしそうに見た彼。
「さて、セブルスの言うとおりスズネは悪くない。今頃彼らはマクゴナガル先生にお灸を据えられているじゃろう」
ダンブルドアの言葉に、スズネは思い出す。
こっちに原因はなかったとはいえ、物理的には自分は何もされいていないのに先に傷付けてしまったのは事実だし他にやり方があったとも思う。
そもそも自分がきちんと感情の制御と魔力のコントロールができていれば、怪我をさせてしまうまでには至らなかっただろう。
自分の落ち度だとスズネは表情を曇らせた。
「わたし、あの人たちにも謝らないと」
「…なんでだ。こっちは何も悪くないだろう」
「先に攻撃してしまったのはわたしだし…」
いつか日本の魔法学校の教師に今回と同じようなことで怒られた時、言われたことがある。
わたしの魔力は危なくて、そのまま感情に任せて無意識に暴発させればいつか人を殺すと。
あの時セブルスが止めてくれなかったら、どうなってただろう。
考えてゾッと背筋が凍り、スズネは自分の身体を摩る。
彼女がこの世で一番恐れているもの、それは自分自身だ。
自分で制御しきれないほどの魔力が怖い、それで誰かを傷付けてしまう自分が怖い。
いつか、自分の大切な人まで傷付けてしまうことになってしまったら…。
「………ッ」
その為にも、先程ダンブルドアが言っていたように自分の魔力をきちんとコントロールできるようにしないとダメだとスズネは改めて強く決意する。
さっきまで涙を溜めていた弱々しい瞳とは打って変わり、その赤い瞳が力強い眼差しに変わるのをセブルスは見ていた。
きっと彼女は飛びぬけて魔力が強い、だからこその苦悩や弱味がたくさんあるのだろうし今までもあったのだろう。
顔を顰めるセブルスに不安を感じたスズネは、彼のローブをグッと握った。
「セブルス、」
「なんだ」
「…嫌わないで」
「―…嫌うわけ、ないだろう」
グリフィンドールの彼らに、自分を大切な人だと言ったスズネのことをいつの間にか同じように大切だと思うようになっていた。
彼女がもう、自分のことを責めたり苦しんだりしないように。
また彼女の魔力が暴走してしまうようなことがあった時に、自分がそれを止められるほどの…守れるほどの強さが欲しいと思った。
(それぞれの決意を胸に)
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