kimetu | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



姉ト兄




炭治郎から文の返事がきた。
その枚数は十を超えた大容量ではあったけれど、炭治郎の”聞いてほしい”がたくさん詰まってるから読んでいて楽しい。

その文の中で一番多く書かれていたのは錆兎と真菰のこと。炭治郎のことを助けてあげて、というわたしのお願い。それをあの二人は聞き入れてくれて、今度は炭治郎の力になってくれているらしい。
まあ、錆兎に至っては初対面で炭治郎を一方的にボコボコにしたことについては少しの腹立たしさもあるが目を瞑ろう。

そんなこんなで、特に任務もなかった午前中は炭治郎の文を読みながら藤の花の家紋の家でのんびり過ごしていた―――のだけど。


「おい、ちょっと面ァ貸せ」


わたしの休む室にズカズカといきなり入り込んできた、顔も身体も傷だらけで怖い顔をした鬼殺隊の男の人からの何とも物騒な呼び出し。
この人は誰なんだろう、と思いつつも何か反抗すれば面倒なことになりそうな気がしてわたしは素直に彼についていった。



■ ■ ■



連れてこられたのは煉獄さんの家と同じくらい大きなお屋敷で、戸を叩いたりすることもなく大股で門をくぐっていく男の人。
屋敷に入ってからも特に会話はなく、通された室で座って待ってろとだけ言われて彼は出て行った。

しばらくして戻ってきた彼の持つおぼんには、てんこ盛りのおはぎと湯気の立った湯飲みがふたつ。それを座卓(テーブル)の上に置き、ドカッとわたしの向かいに座った彼。わたしの頭の中ではたくさんの疑問符が飛び交っていた。


「てめェか。柱の話蹴ったっつー変な女はァ」
「……はあ。竈門月子です」
「…俺は不死川実弥。風柱だ」
「そうですか。………え、柱?」


こちらに渡された湯飲みを手に取り、ふーふーと冷ましていた動作がピタリと止まる。
何でこうも柱の人たちと縁がありすぎるのか。そう思ったけれど、柱補佐という役職に就いている以上は柱との関わりはあって当然のこと。

それにしてもこの、柱である不死川さんとお茶をしている今の状況―――柱補佐の役割とは関係が無さそうな気がするのだけど。


「柱の中でてめェの話題が尽きねェ。特に煉獄がうるせーのなんのってなァ…」
「……………」
「いきなり任務で初対面ってよりかは先に顔合わせておけ、とお館様も仰って…って俺の話聞いてんのかてめェ」
「ん。…聞いてますが、美味しくて」
「おいし、って…おはぎかァ?」


コクリと頷いて、ゴクンとおはぎを飲み込んだ。

お腹が空いていたこともあって、不死川さんの話を聞きながらおはぎを一つ頂こうと口に含むや否やその美味しさに驚いてしまって…。気付いたら夢中で頬張っていたらしい。
おはぎが好物というわけではないけど、単純に甘いものが好きなのだわたしは。



■ ■ ■



「…うめェならうめェって顔したらどうなんだァ。冨岡の野郎みてェに無表情貫きやがってよォ」


唸るようにそう言って、不死川は気に食わないと言いたげな表情をする。
言われた側の月子はお茶を啜ってからジッと不死川を見つめ、それから小さく息を吐いた。


「あなたも…人のこと言えない気がする」
「っ、……チッ」


不死川は胡坐をかく足の上に肘を乗せて頬杖をつき、イライラしたようにフン!とそっぽを向いた。
美味いものを食べている時に美味いと思っても、美味いと思ってる顔をして食べているかと逆に問われたとしたら、自分も頷くことが出来ないからだ。


「このおはぎのお店、後で教えてもらっても?」
「………別に構わねェが並ぶぞ、あそこは」
「待って手に入るなら待つだけです。これは炭治郎たちにも食べさせてあげないと」
「炭治郎……?」


―――ああ、弟です。わたしの。

今まで感情の読み取りづらい顔をしていた彼女が、”弟”という言葉を口にした瞬間に目元と口元がふわりと緩んだことに不死川は目ざとく気が付く。


「―…弟、がいんのかァ」
「妹もいます。わたしが長女で、下に六人の弟妹たちがいて両親も合わせて九人家族です」


そう言う声音は柔らかいのに、不死川は目の前の彼女から確かな殺気を感じ取った。

鬼殺隊に入る理由は人それぞれあるが、その殆どが”鬼”との因果によるものだ。野暮なことは聞くもんじゃない、と頭で理解しつつも不死川は月子が鬼殺隊に入った経緯が単純に気になってしまい、躊躇いつつも口を開いた。


「………お前、何で」
「殺されたから」
「っ、………」


不死川が言い終わる前に、月子の鋭い声がその言葉を遮る。赤と金の入り混じった双眸は不死川に向けられることはなく、開け放たれた襖の先の青空をぼうっと眺めているようだ。


「母親と四人の弟妹を鬼に殺された。その鬼を殺すために鬼殺隊に入りました」
「……そうかァ」


妹や弟がたくさんいて、家族を喪って、鬼を憎み、剣を握った。

―――俺と、同じだ。
ただそう思った。胸の中に抱いた感情は、言葉に表すことが出来ないほど曖昧で複雑なもので。不死川はなんとなく、胡坐を組み直した。



←