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協力者




愛しき炭治郎と禰豆子へ。

不本意なことに半ば強制的によく分からない役職を与えられました。そしてわたしたちを鱗滝さんの元へ導いてくれた人、冨岡さんと再会しました。また少し忙しくなりそうです。
無理せず頑張ってね、炭治郎。寝る子は育つって言うけれどさすがに寝すぎだと思うよ、禰豆子。
次会える日を楽しみに、わたしも頑張ります。




■ ■ ■




追加の文を鎹鴉に託し、煉獄家を後にして。
柱である冨岡さん管轄の区域である場所の見廻りに同行しているところだ。


「……………」
「……………」


まったく会話がない。それだけなら別に何の問題もない。わたしも元々お喋りな方ではないから。

何が気になるかって、横を歩く冨岡さんがわたしに対してチラチラと頻繁に視線を送ってくることだ。
何かあるなら話しかけてくれればいいものを…と思うけれど、わたしが話しかけづらい雰囲気を出してしまっているのも考えられるしもしそうなら余計わたしから話し出すのは躊躇われるというか…。


「………”あの”妹と弟は?」


やっと、冨岡さんの静かな声が右耳に流れてきた。

鬼殺隊である彼の滅殺対象であるはずの禰豆子を殺さないでくれた上に、わたしと炭治郎に進むべき道を指し示してくれた厳しくも優しい人。
今も、禰豆子を鬼と知りながら妹と弟のことを気に掛けてくれている。


「禰豆子はあれから一年以上も寝たままで、未だに目を覚ましていません」
「……眠っているのか」
「はい。鱗滝さんが言うには、通常の鬼が人の血肉を求める”衝動”―――それを禰豆子は寝ることによって抑えているのだろうと」
「…そうか」


冨岡さんの返事はそれだけで終わった。

鱗滝さんは、炭治郎が最終選別を突破して鬼殺隊に入るまではお館様へ禰豆子のことはまだ報せないと言っていた。きっと冨岡さんも同じなのだろう。
柱という立場にある冨岡さんは尚のこと、鬼殺隊のトップであるお館様に必ず報告をしなければならないはずのことなのに。

本当に、鱗滝さんと冨岡さんにわたし達は救われている。いくら感謝しても足りない。


「…ありがとうございます、冨岡さん」
「…………?」
「禰豆子が生きているのも、わたしと炭治郎が前に進めたのも。あの時あの場所に、あなたという心優しい人が来てくれたからだと思うから」


あの時の、彼の言葉は一生忘れることはない。


『生殺与奪の権を他人に握らせるな!!』
『惨めったらしく蹲るのはやめろ!そんなことが通用するならお前の家族は殺されていない。奪うか奪われるかの時に主導権を握れない弱者が、妹を治す?仇を見つける?―――笑止千万!!』
『弱者には何の権利もない。悉く力で強者にねじ伏せられるのみ!妹を治す方法は鬼なら知っているかもしれない。だが鬼共がお前の意思や願いを尊重してくれると思うなよ』



家族を喪ったばかりのわたし達に向けられた言葉。普通だったら慰めや同情の言葉を掛けただろう。

だけど冨岡さんは力強く真剣な表情で、ただ蹲るしか出来なかったわたし達に”弱さ”という厳しい現実を突き付けて―――それと同時に”強くなれ”と奮い立たせてくれたのだ。


「…俺は何もしていない」


小さくそう返事をする冨岡さんに、それ以上は何も言わなかった。
本人がどう思っているかは別として、感謝の気持ちを伝えられてわたしは満足だ。

冨岡さんに再び前を歩いてもらうため、彼の前から彼の隣へと移動したら、パシリと手を取られた。


「……冨岡さん?」
「―――これを」


冨岡さんが懐から出したのは絹の布で、広げられたそれに包まれていたのはいつの日か炭治郎からもらった髪飾り。

もらった瞬間から肌身離さず持ち歩いていたそれは、鬼舞辻と交戦したあの時に失くしてしまったとばかり思っていたのに。だって、血だらけの家の中も外もどこを探しても出てこなかった。


「おまえが倒れている近くに落ちていた」
「そう、だったんですか…」
「おまえの物だろうと思っていたが、渡すのを忘れていた。…すまない」


手に乗せられた髪飾りは石でできた星のような小さな青い花がたくさん散りばめられていて、変わらず美しい。


「………っ、」


じんわりと、ぶわりと。
感情が溢れて、視界がぼやけていった。

髪飾りをつけたわたしを綺麗だと、自分たちも何か贈り物をしたいと口々に言ってくれていた妹弟たち。そして―――”大好きだよ”と家族みんなで抱き合ったあの日を思い出していた。



■ ■ ■


声も上げずただほろほろと静かに涙を流す月子を目の前にして、冨岡は顔には出さずとも内心でとんでもなく動揺していた。

師である鱗滝に気を失っている彼女の身を託した時に、自分が拾っていた髪飾りも渡しておけばよかったのだ。今彼女が泣いているのは、それをすっかり忘れてしまっていた自分のせいなのだろう。そう考えるが、この冨岡義勇という男は良く悪くも不器用で、口下手で。泣いている女性を慰める方法などは知る由もないし考えも付かないのである。

やがて月子も冨岡も無言のまま数分―――。
涙を引っ込めた月子が普段通りの凛々しい無表情に戻って、立ち尽くしている冨岡を見上げた。


「……悲しいわけじゃない。優しくて温かい、幸せな思い出で…」
「……………」
「拾ってくれてありがとうございます、冨岡さん」


夕焼けが陽炎を纏ったような揺れ動く双眸に見つめられて冨岡は息を呑んだ。

月子と初めて出会ったあの雪の降る日。
―――”生き残った妹と弟は命に代えても守り、家族を殺した鬼舞辻を殺し、誰にも奪させないために強くなる”と。そう言い放った彼女の力強い声音と眼差しに、冨岡の心は揺れた。

そして今も、月日が経っても変わらない月子に再び心惹かれてしまっているのである。



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