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友達




”柱”とは、鬼殺隊の最高位に立つ剣士達の総称。
階級・甲の中から選ばれた精鋭のみが”柱”になることができる。その定員は九名。
柱は現在すでに九名いるのだが、お館様のお考えにより今回は異例として十名に増やすことにしたという。

煉獄さんの屋敷へお邪魔した次の日に、”柱”というものが何なのかそう教えてくれた。
給金が山ほど貰えるだとか個人の屋敷が与えられるだとかそういう利点もあると煉獄さんは話してくれたけれど、わたしは特に魅力を感じなかった。


「何度見ても美しい呼吸だな、氷の呼吸とやらは。君が柱になったら氷柱だな!」
「…だから、柱にはなりませんって何回言えば―――」


煉獄さんと合同任務にあたるようになってから早一週間。
鬼の頸をあっけなく撥ね飛ばして地面に着地すると、煉獄さんは腕を組んだまま仁王立ちで勝手なことを言っている。

”柱”とあたる任務だから、と。今まで相手にしてきた鬼とはレベルの違う鬼を相手にすることになるのだろうと自分なりに少し気合を入れたというのに、鬼が弱い。それに、鬼が複数出てきても煉獄さんは刀を抜こうとせず、ただわたしが鬼を斬る様子を眺めているだけ。

試されているのだろうけど―――なんだか気にくわない。


「君は今までに何度も下の階級の隊士との合同任務についていたようだが…何故、自分で鬼を斬ろうとせずに他の者に斬らせる?」
「……そんなつもりはないですけど」
「それも、日輪刀が折れているなどと嘘を吐いてまでだ!」


煉獄さんの言葉を聞いて、思わず舌打ちをしてしまった。

やっぱりあの時に感じた視線、そして暗闇に光る赤の双眸と目が合ったのは気のせいじゃなかったらしい。それにしてもどうして、そんな監視まがいのことをわたしにする必要が…。


「悪い意図はないぞ!お館様が十人目の柱の話をした際に、候補である君たち二人がどういう人物なのかを知るために任務にあたる様子を少し見させてもらったとそれだけだ!」


それがたまたまあの橘さんとの合同任務の時だった、と。…刀が折れたなんて言わなければよかった。今さら後悔しても遅いのだけれど。


「――…勿体ない、と思うから」

「勿体ない?」
「せっかく、鬼を斬ると覚悟を決めて努力して剣を振るえるようになったのに。鬼を斬る力があるのに、心の中の何かに邪魔されて何も出来なくなってしまうことが」
「………っ、!」


目の前に立つ煉獄さんの後ろから、眩しい太陽の光が差し込んできた。彼の髪の色や瞳の色がより輝いて見えて、わたしは目を細める。


「身体や剣の腕だけじゃなく、心も”強く”なること。それが大切だと教えてくれた人がいた」


何かを意図してやっていたことじゃない。橘さんのことも、他の合同任務にあたった人達のことも。


『……憎しみや怒りが強さの原動力になることは確かだ。だが、己を見失うなよ。その腕っぷしの強さと同じくらい心も強くあることだ、月子』


―――錆兎の言葉。わたしの中に刻まれた”それ”は、無意識に自分の行動に大きな影響を与えてくれているらしく、少し嬉しくなった。


「キャー……ッ!」
「「―――っ!?」」


いきなりこの場に女の人の悲鳴が響いた。
まさかまだ近くに鬼が?いや、もう夜は明けている。鬼じゃなければ人間か。どちらにせよこの悲鳴はただことではないことは確かだ。

煉獄さんに指示を仰ごうと声を掛けようとしたら、彼は木々の生い茂るどこか一点を見つめたまま動こうとしなかった。


「煉獄さ、」
「甘露寺、そこにいるのだろう!何故コソコソと隠れる必要がある!」


いつものように大きなハキハキとした声で茂みへ話しかける煉獄さん。名前を呼んでいるから彼の知り合いなのだろうけど本当に、何故そんなところに…。


「え、へへ…。煉獄さんにはバレちゃうわよね!私ったら何で隠れられると思ったのかしら!」
「む。俺でなくともあのように大きな声を出したら誰でも気付くぞ!」
「ええ!?私、声出しちゃってました!?」
「ああ!とても大きな悲鳴だった!」
「うそっ!やだ、恥ずかしいわぁ…ッ!」


茂みから姿を現したのは、薄い桃色の髪を三つ編みにした女性だった。胸元が丸見えで露出が多いように感じるけど、それは確かに鬼殺隊の隊服だ。

甘露寺と呼ばれた彼女は恥ずかしい、と顔を赤くして頬に手を添えながらチラチラとこちらに視線を寄越してくる。


「あの、竈門月子ちゃんよね…っ?」
「…はい。竈門月子です」
「やだ、え。本当に綺麗で可愛い子…!声も透き通ってて素敵だわ!こんなに華奢なのに強いなんてとっても魅力的…っ!」


ビュンッと光の如き速さでわたしの目の前まで来た彼女は、うっとりとした表情でわたしを上下左右360度くまなく観察し始めた。

観察してる間ずっと、甘露寺さんはどこが素敵ここが素敵とそればかり。ここまで容姿を褒めちぎられたのは初めてだ。
とても変な女の人。そして彼女をどうしていいか分からないわたしは、煉獄さんに助けを求めるしかなくなってしまった。


「甘露寺、その辺にしておくんだ。君たちは初対面だろう。まずは自己紹介からだ!」
「ハッ!そ、そうだったわね…。ごめんなさい、つい興奮しちゃって!私、恋柱の甘露寺蜜璃よ!月子ちゃんを一目見たくて来ちゃったの」


―――恋柱。
つまりこの可憐な女性は、煉獄さんと同じく、九人いる”柱”のうちの一人。



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