邂逅 わたしが鬼殺隊に入ってちょうど一年。 鬼殺隊においてのわたしの階級は既に甲(きのえ)という、十ある階級の中でも一番上になっているそうだ。しかも甲に上がったのは今から約半年以上も前のこと”らしい”。 自分のことなのに何故こうも他人事のようなのかと言えば、わたし自身その階級というものに大したこだわりがなく、加えて本人に何の通達もなしに勝手に階級が上がっていった為にそれを知る由がなかったから。 「…禰豆子は未だ眠ったまま、か」 炭治郎から定期的に送られてくる文が今朝届き、それに目を通しながらも歩を進めていた。 通常、鬼は人の血肉を求め理性を無くし喰らう。しかし禰豆子はそれをしない。鱗滝さんは、人の血肉を喰らう代わりに”睡眠”をとることによってその精神力を保てているのではないかと言っていた。 何れにしても、禰豆子と炭治郎が息災であるのならばわたしはいいのだけれど。 「ヒョウ、あとどのくらい?」 「モウスグ〜!モウスグ産屋敷邸ガ見エテクル〜!」 ヒョウ、と名付けた鎹鴉に尋ねればわたしの頭上を旋回しながらもうすぐだと連呼する。 ―――そう。今向かっているのは、鬼殺隊の本部でもある産屋敷邸という場所。 数日前、鬼殺隊のトップである産屋敷輝哉という人が直接わたしに文を送ってきたことがきっかけだ。 文には色々と書き連ねてはあったけれどどうにも全部に目を通す気にはなれなくて、最後のあたりだけを読んだ結果…”色々と話したいことがあるから来てほしい”とのことらしかった。 呼ばれる心当たりは考えればないことはない。鬼舞辻の手掛かりを少しでも掴めればと単独で行動することは専らだったし、そもそもわたしが過去に鬼舞辻に血を流し込まれたことだって隠している。それがバレたとは考えにくいが。 「はあ……面倒だな」 呟いて前を向けば、ヒョウの言う通り大きな屋敷が見えてきた。行くしかないのだけどどうにも気が進まない。 何回目になるか分からない溜め息を吐いたとき、わたしの後ろから人が歩いてくる気配がした。 顔だけ振り返り、その姿を確かめる。 薄い茶色の髪を高い位置で二本に結っていた。桃色の羽織の下に見慣れた隊服が見えたため、彼女も鬼殺隊の隊士で間違いはないのだろう。 「…あら?もしかして貴女も呼ばれたの?」 目の前で止まった彼女はわたしよりも随分と背が低く、顔がよく見えない。 わたしに話しかけ、それからゆっくりと顔を上げた彼女とかちりと目が合う。 彼女は若草のような色の瞳をしていて、顔が小さくそしてとても幼く見えた。 禰豆子と同じかそれ以下か。身長も相まって、それくらい幼いような―――。 「ちょっと!そんなジロジロ見ないでもらえる?」 「…ごめん」 「フン。……貴女、名前は?階級は?」 「…名前は竈門月子。階級は甲」 この手の女子は反抗的な態度をとれば癇癪を起して五月蠅くなるタイプだ。 そう分析して素直に受け答えをすると、彼女は少し何かを考える素振りをしてからズンズンとわたしを追い越して歩き出した。 「あたし、雛森めい。貴女と同じ甲。…柱になるのはあたしなんだから」 今日初めて会ったばかりだというのに何故こうもわたしに対して彼女は攻撃的なのか。 はてな、と首を傾げて肩に止まっていたヒョウに目を向けたら両翼を広げて『ヤレヤレ』と肩を竦めるような動作をしていた。 雛森さんは”貴女も”呼ばれたのかと聞いてきた。 それは彼女もわたしと同じく、産屋敷邸に呼び出されて此処へ来たということ。…他にも同じような人が何人もいるのだろうか。 「……行きたくない」 「行クシカナイ」 「…分かってる」 「分カッテルナラ行動ニ移セ!約束ノ時間マデアト五分!」 ヒョウに頬を突かれ、急かされて。 わたしはトボトボと産屋敷邸へと足を踏み入れてしまった。 |