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太陽がちょうど真上まで昇った真昼。
産屋敷邸ではおよそ半年ぶりの柱合会議が行われているところだった。


「では天元。報告をお願いできるかい?」


現在においての鬼殺隊の最高管理者である産屋敷の一族の97代目の当主産屋敷輝哉。
彼に促されて、音柱の宇随天元は小さく頭を下げてから口を開く。


「一ヶ月前、戊の竈門月子と癸の隊士の合同任務をちいとばかし覗いてみました。お館様にも既に報告がいってるとは思いますが、最終的に鬼を斬ったのは癸の隊士です」
「ハッ、なんだそりゃァ。一月で二十もの鬼を斬ったなんざ聞いて少しは期待してたんだがなァ…。その戊の女、大したことねェんじゃねーかァ?」


宇随の報告を聞いて馬鹿にしたように鼻で笑い飛ばしたのは風柱の不死川実弥だ。


「おいおい不死川。俺の報告はまだ終わっちゃいない。最後まで聞けよ」


そんな不死川に鼻で笑い返した宇随が、顎を撫でながらその時の様子を思い出すかのように再び話し始めた。


「竈門月子は癸に鬼を”斬らせた”んだよ。―――なんでも、日輪刀が折れてたらしいからな」


それを聞いて、話を聞いていた柱の誰もが疑問を抱いた。

鬼と戦える唯一の武器である日輪刀が折れた、となれば刀が再び出来上がるまでは任務を与えられることはない。日輪刀無しに鬼と対峙することはつまり死にに行くようなものであり、それに例外はないはずなのだ。

しかし日輪刀が折れてるという竈門月子は癸との合同任務を与えられ、遂行した。
とどのつまりは―――。


「……どうして、そんな”嘘”を吐く必要があったのでしょう?」
「うむ!確かに疑問だ。短期間でそれだけの鬼を滅してきた彼女が、今さら鬼を前にして怖気づいたとは考えにくい!」


鈴の音が鳴るような声でそう言い、首を傾げるのは蟲柱の胡蝶しのぶである。
そして彼女に続いてハキハキとした大きな声を発するのは炎柱の煉獄杏寿郎。


「さあな。ただ、その癸の隊士はもう二年も鬼殺隊に所属してるが、今までに鬼を斬ったことが一度しかなく誰かとの合同任務にしかつけないような奴だった。だが、」


―――竈門月子との合同任務の後、そいつは人が変わったようにメキメキと力を上げてこの一ヶ月で庚(かのえ)まで階級を上げてる。ちなみに竈門月子の階級は既に甲(きのえ)だ。

続けられた宇随の言葉は、その場にいた柱たちを驚かせるには十分だった。


「自分自身もとても強くて、人を育てる力もあるなんて才能だわ…!とっても素敵!」


鼻息を荒くさせて興奮気味に早口で喋り出す恋柱の甘露寺蜜璃。


「……要するに、日輪刀が折れているなどと嘘を吐いて鬼を”斬らせた”のは、鬼を斬れない腰抜けを成長させるためだったと?」
「どういう意図でそんなことしたのかは本人に聞いてみなきゃ分からねェが、竈門との合同任務についた隊士のどいつもこいつもが剣の腕を上げて階級も上げている。これは間違いなく事実です、お館様」


蛇柱である伊黒小芭内の言葉に宇随は肩を竦めて答えたが、言葉の最後にはきちんとお館様である産屋敷へ身体を向けて居住まいを正した。


「ありがとう、天元。…月子の剣の腕は相当なもので、蜜璃が言うように人を育てる力もある。私は、もう少し様子を見てみようと思っている。四ヶ月で癸から甲まで階級を上げた彼女のことだから、きっと鬼を五十斬るか或いは―――」


意味深にそこで言葉を途切れさせた輝哉。
そして、彼の考えているであろうことをこの場にいる柱全員が察した。


「いずれ柱に、とお考えということですね」


岩柱の悲鳴嶼行冥が手に持った数珠を擦り合わせながら問えば、輝哉は何か答えるわけでも頷くわけでもなく…ただ笑みを深くさせただけだった。


「…僕はお館様の意向に従います。たぶん、すぐ忘れるので」


外で飛び回る雀を眺めていた霞柱の時透無一郎が雀から目を離し、輝哉をぼーっと見つめながら呟くように言う。

柱の皆がそれぞれ反応を示す中、水柱の冨岡義勇は月子のことが話に出た途端に思考が月子でいっぱいになってしまったため柱合会議が終わるまで無反応を貫き通していた。





■ ■ ■



「ねえねえ、宇随さん!月子ちゃんってどんな子だったの!?可愛かった?綺麗だった?」
「あー…控え目に言ってとんでもなくイイ女、だな。派手に美人だったぜ。あれでまだ十六とは思えねェな」
「お綺麗なお嫁さんが三人もいらっしゃる宇随さんがそこまで言うんだから、とっても美人さんなのね!はあ〜…私も早く会ってみたいわ!」


柱合会議が終わっても甘露寺の月子への興味が尽きることはなく、興奮冷めやらぬといったように彼女は宇随に詰め寄っていた。

宇随は、再び月子を思い出す。

美しい漆黒の長髪に、金とも赤とも見える不思議な双眸。整い過ぎた顔立ち、どこか神秘的にも思える彼女の雰囲気。
色々な意味で只者じゃねェな、と宇随は初めて月子を見た時に思ったことと同じことを今も思った。


「…………」


きっと、月子が一ヶ月に一度実家に帰るなどしていなければ時透のようにもっと短期間で上まで来れただろうと宇随は確信をもって言える。
―――あの時。暗闇の中で、確実に、あの特徴的な瞳と目が合った。彼女は、柱であり元忍でもある自分の存在に気付いていたのだ。


「ふっ…確かに、な」


会ってみたい、話してみたい。
顔が良いだけの女など腐るほどいる。その人がどういう人間かは、直接関わってみて初めて分かるものだ。

宇随は久しぶりに胸躍るような感覚になりながら、三人の嫁が待つ家へと帰っていくのであった。



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