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帰還




七日間に渡る最終選別。わたしは生き残った。
思ったよりもあっけない。そう思ってしまうのには、理由がある。


「カァ、カァッ…!」
「……うるさい」
「五月蠅イトハ何ダ!無礼者メ!」
「カラスが喋った……」


本部からの通達を伝える役割を持つらしい鎹鴉と呼ばれるカラスを付けてもらい、玉鋼という刀を作る元となるものを選び、隊服を支給された。

最終選別の参加者は十数人いたはずだけれど、突破した者はわたしとそれから異形の鬼を
見たときに一緒にいた男の二人だけ。

解散して家に帰ろうとした時に、彼から『ありがとう』と言われた。
何かお礼を言われるようなことをしただろうか、と記憶を辿っても思い当たることがなかったから特に返事はしなかった。





家へ戻る道中。支給された隊服が意外と重くて、足取りもどんどん重くなっていく。


「……わたし、やっぱり人間じゃないのか」


呟いて、最終選別を思い返す。

鬼は何体か斬った。しかしそれは言葉の通じない、自我を失った"ただの鬼"だけだ。
ある程度会話のできる鬼とも何度か遭遇したが、そいつらは皆、わたしの顔を見るなり怯え出して飛ぶように逃げていった。

厄除けだと言っていた鱗滝さんがくれた狐の面が関係してるのでは、と異形の鬼と遭った時に試しに面を取ってみたが反応は変わらず逃げられた。


「何者か、なんて―――」


わたしが知りたい。

鬼舞辻によって流し込まれた鬼の血が影響して、同族だと認識して襲ってこないのだとしても。あんなに冷や汗をかくほど怯えられ、怖がられるのは何故?…鬼舞辻、おまえはわたしに一体何をしたの。


「…考えても仕方がない、か」


たとえ何者だったとしても、わたしかなすべきことが変わることはないのだから。






帰ってこれたのは日が沈む寸前のこと。

意外と藤襲山から狭霧山まで距離があることと、隊服が重くて思ったより時間がかかってしまった。
走ればもっと早く帰れただろうけど、体力はあってもその気力がなかったから。


「………百二十!百二十一!」


見慣れた家が見えてきたところで、炭治郎の気合いの入った大きな声が聞こえてきた。

もっと近付くと素振りをする炭治郎が目に入り、その一生懸命な姿に疲れが吹き飛んだ。
死なない自信はあったけれど、またこうしてあの子の顔を見ることができたことが素直に嬉しい。


「百二十七!百二十八!ひ、百二十九…!ひゃくさ、んじゅ…っ、―――月子姉さん!!?」
「あ、炭治郎…っうぐ!?」


匂いを嗅ぎつけたのだろうか。
目敏くわたしの姿を見付けるや否や、カランと木刀を投げ捨てて言葉通り飛び込んできた炭治郎。

抱きとめたけれどあまりの勢いに踏ん張れず、地面に尻餅をついた状態で倒れてしまった。


「………炭治郎?」
「よ、よかった…!月子姉さんが無事で!見たところそんなに怪我もないみたいだし、本当に良かった…!!俺、信じるって言ってたけどその言葉は嘘じゃなかったけど!やっぱりすごく、心配だったんだ…っ」


涙声の炭治郎がわたしのお腹顔を埋めて、抱き着いたままそう言った。

逆の立場だったら、と考えれば炭治郎がここまで心配してくれる気持ちがよく分かる。
これほど自分を大切に思ってくれる人がいる。わたしはなんて幸せ者なんだろう。


「ただいま、炭治郎」
「…ああ。おかえり!姉さん」


涙を拭って精一杯の笑顔でそう言ってくれた炭治郎をギュッと力の限り抱き締める。
すると、そんなわたしと炭治郎の二人をひと回り大きな腕が包み込んだ。

見えたのは、空色の羽織と天狗の面。


「―――よく、戻った」


震えているようにも聞こえる、鱗滝さんの声。
その声を聞いた途端、目の奥から熱が込み上げてきて視界が少しずつぼやけていく。

何だかすごく、安心したみたい。
自分のことなのに他人事のようにそう思って、しばらく炭治郎と鱗滝さんの温もりに浸っていた。



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