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秘密




七日間に渡る最終選別が終了し、それを突破できたのは僅か5人。
それでも月子の時は彼女を合わせて2人しか生き残りがいなかったことと比べれば、多い方とも捉えることもできるだろう。

月子は日輪刀を造る素材となる玉鋼を選ぶ炭治郎の姿を見届けると、時透と別れ、弟の帰りを待つべく一足先に鱗滝の家へと向かった。



■ ■ ■



「むー…っ!!!」


鱗滝さんの家に着いて、玄関の扉を開けようと戸に手を掛けようとした瞬間。

―――ガタガタ…と大きな音を立てて乱暴に玄関が開かれた。それと同時に聞こえてきたのは、聞き間違うはずもない妹の声。


「………禰豆子?」


目の前にいたのは、桃色の大きな瞳をパチクリと瞬かせた愛しい子。
何年も眠ったまま目を覚まさなかった禰豆子が今、目の前に立っていて、『むー』とか『んー』とか言いながらわたしにギュッと抱き着いている。

サラサラと頭を撫でてあげれば、禰豆子は気持ちよさそうに目を細めた。
その瞬間、鼻の奥がツンとして瞳の奥が熱くなって、視界がうるっと涙で滲んでしまう。

顔を見に行くたびに、目を覚ます気配のない禰豆子の左胸に耳をあてて、心臓が動いていることに安堵した。鬼である禰豆子は、いつ何が起こってもおかしくない状態だと言われ、不安を抱かない日はなかった。

このまま目を覚まさなかったら、どうしよう。禰豆子が、いなくなったら。死んでしまったら―――。

そんな最悪を考えては消して、わたしと同じように禰豆子を失ってしまうかもしれない不安や恐怖に染まる炭次郎に『大丈夫だから』と根拠もない言葉を掛けて。


「禰豆子…目を覚ましてくれて、よかった…っ」
「むー…?」


小さな身体をぎゅうっと力強く抱き込むと、ポロリと涙が頬を伝ったのが分かる。
禰豆子の尖った爪がわたしの頬を少しだけ引っ掻いて、それから禰豆子はわたしの首に腕を回してガバッと抱き着きスリスリと肩口に顔をすり寄せた。

まるで慰めるようなその行動に、わたしは小さく笑いを零して再び禰豆子を強く抱き締めたのだった。



■ ■ ■



ニコニコと嬉しそうに笑いながら鱗滝さんの作った豪勢な料理を美味しそうに頬張る炭治郎が可愛くて仕方ない。

禰豆子が目を覚ましたことが余程嬉しかったのだろう。
最終選別から家に帰ってきたボロボロの炭治郎を禰豆子と一緒にお出迎えした時の、あの子の様子を思い出したらまた泣いてしまいそうになる。


「炭治郎、よく頑張ったね」


包帯の巻かれている痛々しい頭を優しく撫でてやれば、炭治郎ははにかんで照れ臭さそうにした。

炭治郎の日輪刀が出来上がったら、この子も鬼殺隊の一人として禰豆子と共に任務にあたり、死と隣り合わせの地獄へと足を踏み入れることになる。


『…てめェ、何考えてんだァ?本当にその弟と妹のこと大切に思ってんなら鬼殺隊に入らせるべきじゃねェってことくらい分かんだろォが!』
『鬼なんかとは無関係な場所でそいつらが安全に幸せに暮らせるように、刀振って鬼どもを殺して守ってやるのが俺”たち”のやるべきことだァ』



前に、不死川さんに言われた言葉。
それを言われてからというもの、本当にこれでいいの?なんて頭のどこかで思う自分がいて、頭を悩ませたこともあった。でも―――。


「月子姉さん、俺…ちゃんと鬼を斬れたんだ。俺の努力は無駄じゃなかったんだって、やっとこれで姉さんの隣を歩いて一緒に生きていけるんだって思えて、ほんとうに嬉しかった…!」


最終選別で、実際に鬼と対峙して、異形の鬼とも戦って、命の危機に直面して、逃げ出したいくらいの恐怖に駆られただろう。
それでも炭治郎は、わたしと同じ道を歩むことを変わらず望んでいた。…望んでくれた。

ならばわたしのするべきことは、ただひとつ。
これでよかった、と最後に笑えるように自分で決めたことに後悔しないよう導き歩くことだけだ。


「炭治郎、今日は久しぶりに一緒に寝ようか」
「…えっ。あ、ええ…っ?」
「…炭治郎?」


顔を赤くして何やら狼狽している炭治郎を不思議に思って首を傾げる。そしてたどりついた考え。

炭治郎ももう十五。思春期だし、年頃の男の子だ。
さすがにこの歳にもなって姉と一緒に寝るなんて、わたしは良くても炭治郎は嫌だろう。

…それは少し、いや割と悲しいし寂しいがもう齢二十に近い姉がいつまで経っても弟妹離れが出来ないというのもみっともない。


「ごめん、炭治郎。もうわたしも炭次郎も、一緒に寝るような歳じゃなかった…。嫌だったよね。気が利かなくてごめん」


自然と視線が俯いていく。
はあ、という鱗滝さんの浅い溜め息が静まり返ったその場にやけに響いた。


「っ…それは誤解だよ、姉さん!俺はいくつになったとしても月子姉さんと一緒に寝ることを嫌だなんて思うことはない!…ただ、その…何というか…姉さんが近くにいると心臓がうるさくなって、恥ず、かしくなってしまって…。多分、これは俺が姉さんのこと好き…過ぎるからだと思うんだ、けど」


それはもう林檎のように顔を真っ赤にして、額に少し汗をかきながら炭治郎がそう言った。

心臓がうるさいとか、恥ずかしいとか。炭次郎がそうなってしまうのは何故だろう、と考えたのは一瞬で。炭治郎からの“好き”という言葉ひとつで、先程まで沈んでいた気分がすっかりと元通りになった。…我ながら単純だとは思う。


「…鱗滝さん。わたし、確実に少なくともあと十年は弟離れできそうにない」
「見れば分かる。十年どころかその目処すら立っておらんだろう。―………、月子」


炭治郎をぎゅうぎゅうと抱き締めていたら、鱗滝さんがふと真剣な声音でわたしの名前を呼んだ。


「後で、話がある」
「……偶然。わたしも、鱗滝さんに話ある」


いつかは言わなければならないと思っていた、わたしだけが知るわたしの秘め事。

鱗滝さんの話が何なのかは分からない。ただ“このタイミング”での“話”なら、それは何となく炭治郎と禰豆子に関わることなんじゃないかと漠然と推測を立てていた。



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