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成長




今日から七日間、心臓がどきどきしてうるさい日が続くことになると思う。




わたしの隣を静かに歩く、自分より背の小さい少年を見下ろして息を吐いた。


「―――ねえ」
「………?」
「人の顔見ては溜め息吐いて、失礼だと思わないの?」
「……すみません」


どんなに小さくても、わたしより年齢が下でも。生意気でも。彼は正真正銘、柱であり実力者の一人。霞柱の時透無一郎さん。

とりあえず、何故わたしが彼と今一緒に行動しているかはさておいて。
今日は、あの鱗滝さんのスパルタ鍛錬にこの二年間耐え抜いて、そして大きな岩を叩き斬ったという炭治郎が―――最終選別へと赴く日なのだ。

心配で、心配で、どうしようもなく心配で。お館様に『弟の最終選別の様子を見に行きたい』と懇願しまくって。
そしてやっと―――弟がどれだけの窮地に陥っても一切の手出しをしないという約束と、最終選別に参加している人達の前に姿を現さない約束と、鬼を減らさないという約束の元にそれが許された。

正直に言えばわたしは、炭治郎が死にそうになれば助けるし、そうなれば自ずと姿は現してしまうし、鬼も斬る。約束を守るつもりがないわけではない。守れる自信が一ミリもないだけで。
お館様もわたしがそう思ってることを察知したから監視的な意味合いで時透さんを付けたのだろうが。


「…………」


心の中で溜め息を吐いたとき、スンと鼻を香った藤の花の匂い。
目の前の長い石階段を上った先には、枝垂れた薄紫の美しい花が咲き誇っていることだろう。

二年前に行われた自分の最終選別については正直なところ、あまり印象に残っていない。
あの頃はまだわたしの中の鬼舞辻の血が濃くて、鬼たちはわたしを見た途端に怯えて逃げ出してしまって殆ど刀を振るう機会がなかったから。


「なに惚けてんの。とっとと行ったら」
「…ん?時透さんも一緒に来るのでは、」
「あんたの私用だし、僕が一緒にいる必要ない。お館様との約束さえ守るなら最終選別の間は好きに動いていい」


本当に、柱は個性的な人だらけだ。
時透さんはそれ以降口を開くことはなく、藤の花をボーッと眺め始めてしまった。


「なに?まだいたの?最終選別、もう始まるけど」
「あの、時透さんはこの七日間ずっとわたしと同じくこの山に?」
「…この山付近でも見廻ってる。七日後にまたここで。きっと忘れてるだろうから頃合いに僕に鴉を飛ばして」


わたしの見張りだろうにわたしと一緒にいなくていいのか。
時透さんの独断なのかお館様がそう言ったのか定かではなかったけれど、時透さんは恐らくこれ以上は何も言わないだろうと思い、わたしも口を閉ざしてその場を去った。





―――陽が沈み、月が昇る。
時透さんの言う通り、最終選別は始まった。始まってしまった。

とりあえずは炭治郎の姿を探そう。
はやくあの子の顔が見たい。声を聴きたい。あの日から二年の月日が経ち、どれ程の成長を遂げたのか目に焼き付けたい。

そこまで思って、ふと思い出した。
先日、任務で一緒になった宇随さんに『おまえは気持ち悪いくらい弟と妹が好きだな』と引き気味に言われたことを。


「だって…久しぶりだし、許してほしい」


誰に言うわけでもなく、口をついて出たのは苦し紛れの小さな反論。
ただ少し気恥ずかしいような気持ちもわいてきて、風の冷たさをひしひしと感じていたはずの頬がスッと熱を持ったような気がした。


「―ッ……!」


パンッと自分の両頬を叩く。

今この山の中には炭治郎をはじめ、様々な想いを胸に鬼に立ち向かっている子たちがたくさんいる。ここで失われた命だって、たくさん。


「―――気を引き締めろ、わたし」


刀に添える手に力を込め、わたしは炭治郎を探す足を速めたのだった。


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