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思慕




任務が与えられるのは鬼が活動を始める夜が殆どで、逆を言えば太陽の出ている昼間は任務という任務が特にないことが多い。

その間わたしが何をしているかと言えば、その5割は鬼舞辻の手掛かり探しに充てている。2割がその他の鬼の情報収集、3割が炭治郎たちのこと。

今は鬼舞辻の手掛かり探しの最中なのだけれど、これが全くと言っていいほど捗っていない。




「はあ………」


まずそもそも冒頭でも言ったように、鬼は太陽を避けた夜に姿を現す。
そしてその鬼たちに鬼舞辻のことを問えば、ほとんどの鬼が口を割らず灰になっていったが、命乞いをした口の軽い鬼たちは鬼舞辻の名前を口にしただけで彼の”呪い”によって事切れてしまうのだ。

珠世さんには軽く聞いてはいたけれど、鬼舞辻は自身の情報漏洩を恐れて自分の血を分けたすべての鬼にそういった”呪い”を施している。
それもあって、あいつに関しての手掛かりは珠世さんから聞いた事以外ではほぼ手に入れることができていない現状だった。


「………はあー」

「よう、美人な姉ちゃん。溜め息つく姿も憂う顔もまた一段と美人だねェ。俺たちと楽しいコトすれば悩み事も忘れちまえるぜ?」
「……………はあ」


人通りの多い町だったし、こういった輩が白昼堂々と絡んでくることはないだろうと踏んでいたのに。

男二人がわたしの顔を挟むようにして両側から顔を近付けてくる。周りをチラっと見渡せば、もちろん赤の他人である彼らはこちらを気にしつつもみんな素知らぬ顔だ。別にいいけど。


「おいおい、無視はよくねェな?昨日の女は俺たちの言うことを大人しく聞きやがらなかったから仕方なく殺しちまったんだが…」
「ひひっ、お前もそうはなりたくねェだろう?」


そいつらの言葉を聞いた瞬間、自分の中の体温が一気に冷えてく感覚に陥った。
罪のない人間を殺すのは、何も鬼だけじゃない。ここに転生する前にわたしが生きていた世界でだって、殺人だなんだは日常茶飯事だったのだから。

そしてその時からずっと思っていたことがある。
―――人の命を奪った奴は当然、逆に自分の命を奪われてもいい相当の覚悟があって大罪を犯しているんだろうなって。


「……何か、」
「あ?なんか言ったか?」
「何か言い残すことがあるなら、どうぞ」
「―――ッ…」


目の前の男共の表情が打って変わって余裕のないものに変わる。怯えてるのか、寒いのか。ガチガチと歯を鳴らしてガタガタと身体を震わせていた。

わたしはそっと刀の柄に手を添えて、それから―――。


「ちょいとこいつ借りてくぜ」
「―…っ!?…ちょっ、?」


唐突に浮いた身体と知らない男の声。
わたしの身体を軽々と小脇に抱えたガタイの良い男は、その身体からは想像できないくらいの身軽さでわたしを連れ去っていく。

抵抗しようと思えばいくらでもできたはずなのにしなかったのは、『俺は音柱だ。暴れんなよ』と小脇に抱えられてすぐにそう彼がわたしに耳打ちをしたからだった。



■ ■ ■



音柱こと宇髄天元は、無表情なりにも少し不機嫌そうな雰囲気を纏う目の前の月子を見下ろした。


「おまえな、昼間に町歩くときはできるだけ帯刀するな。俺たち鬼殺隊は政府非公認組織だって知ってんだろ?」


呆れたようにそう言う宇髄の姿を見てみれば確かに、隊服は着ておらず日輪刀も見当たらない。しかし鬼は”昼”を嫌っているわけではなく”太陽”を嫌っているだけで、昼間でも太陽の光の届かない影の多い場所には息を潜めている可能性は十分にある。いつ危険が転がり込んでくるか分からないのだ。

宇髄の言っていることは理解できるが、月子にも譲れない考えがあるため彼の言葉に月子が頷くことはなかった。
地味な話はここまでだ、と宇髄は話の流れを断ち切るように両手をパンッと一回叩く。


「竈門月子、会うのは二度目だな!」
「…一度目はあなたが一方的にこちらを監視してただけで会ってはいません」
「やっぱ気付いてたか。ま、堅苦しいこと言うなって。俺はおまえとこうして顔を合わせて話すのを派手に楽しみにしてたんだぜ」


ニッと歯を見せて笑う宇髄を、月子はジトリと見上げた。



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