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心解




その瞳を見たとき、純粋に”綺麗だな”と見惚れた。
まるで太陽と月を宿したような左右で違う色の双眸は、わたしの姿を映すと同時にスッと…まるで蛇が獲物を見つけた時のように細められた。

包帯で隠された口元は包帯越しにわずかに形が見て取れるが、笑っていないことは一目瞭然。
この人も、冨岡さんや不死川さんと似たようにあまりお喋りではない方なのか。

蛇柱である彼―――伊黒さんと合同任務に就いてわずか数十分もしないうちに、その第一印象が覆されることとなるとは思いもしなかった。


「特にお館様や煉獄がおまえのことを必要以上に評価しているが、俺は自分の目で見たもの以外のことは信用しない。この任務においておまえがその評価に”相応”かどうか見定めさせてもらう」


ネチネチとブツブツと。
伊黒さんが意外にもお喋りであることが分かり、少なからずそれに驚いていたところで気になった彼の言葉。


「…見てたでしょう。雛森さんとわたしの任務」


自分の目で見たもの以外は信用しない、だなんて。
まるでわたしが鬼と対峙しているところなど一度も見たことないような言い方。
雛森さんと癸の二人との合同任務の時に感じた視線と、その特徴的な瞳の色は紛れもなく伊黒さんのものだった。


「―…”おまえが”、鬼の頸を斬っているところは見ていない。既に鬼を五十以上斬っていることは事実なのだろうが、俺がおまえを認める判断材料は”自分の目で見たもの”だけということだ」


そう言い放った伊黒さんの首に巻き付いた白蛇がチロチロと二又の舌を出す。
蛇をこんな間近で見たのは初めてで、物珍しくて思わず見つめてしまった。くりっとした小さな真ん丸の赤い瞳がわたしを見つめ返してくる。

蛇の目って怖い印象があったけれどこうして見てみると中の模様が奇抜で、何よりもその色彩が綺麗。この白蛇が小さめなこともあってか、愛らしい。


「……伊黒さん、」
「…何だ」
「この子の名前、何ですか?」


いきなり何なんだと言いたげな伊黒さんの視線を感じるけれど、それでもわたしの視線は変わらず目の前の白蛇にあった。

殆ど無意識に、手を伸ばしたら伊黒さんの首元から離れてわたしの右腕に緩く巻き付いてきてくれる。
噛まれないか不安だったけれど、白蛇がわたしの指先をチロリと舐めたからその不安はなくなった。


「…鏑丸が、初対面の人間にそこまで……」
「鏑丸って名前なんですね。蛇がこんなに可愛い生き物だったなんて初めて知った」


伊黒さんの初っ端からのわたしに対しての言動からして、わたしをあまり良くは思っていないというのは分かった。そんな彼との任務にちょっとした憂鬱を感じていた。でも鏑丸の存在のおかげでその憂鬱もだんだんと薄れてきたような気がする。

とりあえずはいつも通り、任務をこなそう。


「ありがとう、鏑丸」


わたしの腕から離れて伊黒さんの首元に再び身を落ち着かせた鏑丸に小さくお礼を呟けば、『変な女だ』と同じように伊黒さんが呟いたのが聴こえた。

"変”を”個性的”と捉えていいのなら、わたしから見たら柱の人達も十分”変”だと思う。伊黒さんに言ったら何倍にもなって言葉が返ってきそうだったから言わないけれど。




■ ■ ■



詳しい任務の内容も聞かされないまま伊黒さんの後をついて歩いて三十分程経っただろう時、状況の変化は訪れた。


「「―……、!」」


それは、ほぼ同時のことだったと思う。
わたしと伊黒さんは”その”気配を察知して瞬時にその場から飛び、それぞれ近くの木の上に移った。

何の音もなく放たれた攻撃は、わたしたちが先程までいた場所にはっきりとその爪痕を残している。
―――月明りに照らされて怪しく光る銀色の針が数本、地面に突き刺さっていた。


「獲物ガ来タヨ、オ兄チャン。綺麗ナ目ニ綺麗ナ顔…嗚呼、良イナァ」
「グチャグチャニシテヤロウ。ソシタラアイツラモ醜クナルサ」


幼い子供のような声と共に暗闇から姿を現したのは、二体の異形の鬼。紫色の肌、顔には大きな目玉がひとつだけ。異常に伸びた髪は重力に逆らい、ウネウネと宙を漂っている。


「…元、下弦の鬼か」


―――下弦の鬼。
初めて聞くワードについて伊黒さんに聞く暇もなく、目の前まで迫っていた針を刀で弾く。
今回の任務は少し長くなりそうだな、とどこか他人事のようにそう思った。



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