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「長男の炭治郎と次女の禰豆子は生きていてくれた。わたしは一足先に鬼殺隊に入ったけれど、あの子たちも鬼殺隊に入るために修行中で」
「―――、はァ!?」


バサバサッ、と庭の木にとまっていたらしい鳥たちが不死川の大きな声に一斉に羽ばたいていった。
さすがの月子もこれには驚き、無表情を崩して目を見開いて不死川を見ている。


「…てめェ、何考えてんだァ?本当にその弟と妹のこと大切に思ってんなら鬼殺隊に入らせるべきじゃねェってことくらい分かんだろォが!」
「……………」
「鬼なんかとは無関係な場所でそいつらが安全に幸せに暮らせるように、刀振って鬼どもを殺して守ってやるのが俺”たち”のやるべきことだァ」


不死川はギロリと目を開いて、月子を睨んだまま言い放った。

―――もう誰も何も、失いたくねェ。傷付いてほしくねェ。生き残ったたった一人の弟(家族)。自分の命よりもよっぽど大切な存在で。何よりも、平和な場所で幸せに生きていてほしいと願うから。だから―――。


「わたしだって、炭治郎たちが鬼殺隊に入ることにはもちろん反対だった」


ドクドクと音のうるさい心臓をそのままに、不死川は少し呼吸を整えながら月子の言葉の続きを待った。


「でも、炭治郎の言葉で考えが変わった。」


月子は微笑んだ。よく見ていないと分からないくらい僅かな笑みだった。


『俺たちは、家族だよ。月子姉さんが一人で苦しんだり、悲しんだり、背負ったりする必要なんてないんだ。母ちゃん達は死んでしまったけど……でも、俺と禰豆子が居る』
『苦しみも悲しみも全部、俺と禰豆子と月子姉さんで分け合っていけば…きっとどんなことも俺たちは乗り越えられる』
『俺は、姉さんと一緒に歩いていきたい。この先もずっと。俺も禰豆子と姉さんを守りたい。…そのために、強くなりたいんだ』



一言一句も忘れたことのない炭治郎の言葉、表情。
あんなにも真摯な炭治郎の思いを無碍にすることなど、月子には出来なかった。


「あの子たちの生きる道はあの子たちが決めること。自分から無理やり引き離したり、こうしろああしろと押し付けたりする必要もない。あの子たちに危険が迫ったその時は、わたしがこの命に代えても守る。ただそれだけ」


月子の弟である炭治郎の言葉。そして月子の意志。
それを聞いた不死川は何故だか無性に、弱音を吐いてしまいたくなった。

―――俺の考え方は間違ってたのか?今や唯一の家族である玄弥を突き放したのも?
弟を何よりも大切に思う気持ちは、目の前のこいつに負けてないはずなのに…俺は。


「不死川さんにも、いるんですね。自分よりも何よりも大切で、守りたい人」
「………、るせェ」
「不死川さんの考え方は間違ってないですし、そうであるべきだと今でも思うことはあります。でも―――」


月子は不死川から目を離して、また青空に視線を向けた。ちょうど雲に隠れていた太陽が顔を見せ、その眩い光が降り注いでくる。
月子の艶やかな黒髪に陽光が当たり、鏡のように反射して見えて不死川は目を細めた。


「その人を想うあまり、その人から幸せや笑顔を奪ってしまう原因に自分がなってしまったら本末転倒だと思ったので」


死の危険と常に隣り合わせで歩く自分と同じ道を歩いてこようとする弟の玄弥を、心にもないことを散々吐き捨てて己から突き放し続けている。

それを今初めて後悔してしまったのは、同じ境遇に置かれた月子の、自分とは違うその”守り方”に納得してしまった自分がいたからなのだろう。しかしそれを素直に認めたくない、認められないのが不死川の性分なのである。


「……やまもと」
「………?」
「…そのおはぎの店の名前だァ」
「やまもとって名前のお店、他にもありそうで探すの大変そうですね」
「……行くとき声掛けろ。気が向けば案内してやらねェこともない」


ありがとうございます、と言う月子は相変わらず無表情ではあったが不死川がそれに気に食わなさを感じることはなかった。



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