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恋柱である甘露寺蜜璃は竈門月子について他の隊士から彼女の話を初めて聞いた時から。そして月子の任務の様子を見に行った宇随からその報告を聞いてからずっと、彼女と会って話をしてみたくて堪らなかったのだ。

今回、月子と会えたのは甘露寺につく鎹烏の口が軽かったことが功をなした。

任務を終えた甘露寺が『月子ちゃんは煉獄さんの元で上手くやってるのかしら。心配だわ…』と呟いたところ、それを聞いた自身の鎹烏が月子と煉獄の任務の詳細をペラペラと喋ってくれたのがきっかけで、それを聞いた甘露寺が文字のまま月子たちの元へとすっ飛んで行ったのである。




「いきなり叫んでごめんね。大切なことを教えてくれた人がいたって話をしてた時の月子ちゃんの表情がとっても柔らかくて素敵だったから、もしかしてその人に恋してるのかしら!って思ったら興奮しちゃったみたいなの…」


お互いに任務を終えたばかりであり、次の任務の予定もなかったため、是非とも月子ともっと仲良くなりたいと思った甘露寺は杏寿郎に許可を得て半ば強引に月子を町へと連れ出した。

月子の腕を引っ張って、お気に入りの店へと入りすぐさま大量の甘味を注文。
注文したものが来る間、甘露寺は月子に一方的に話しかけている。


「…恋はしてないです。ただ、わたしに色々なことを教えてくれた人というだけで」
「あら!そうだったのね!私ったら早とちり…恥ずかしいわ!あ、じゃあ煉獄さんはどうかしら?すごく素敵な人でしょう?どう思ってる?」
「…………」


”恋”柱なだけあって、甘露寺蜜璃という人は恋に関する話題が好きなのか。
その手の話には疎いし、何より本人がそういった感情に鈍いこともあり、月子はいまいち甘露寺の話についていけなかった。


「煉獄さんは、真っすぐな人だと思います。…愚直なくらい」
「愚直!そうね、煉獄さんは嘘とか吐けなさそうよね!でもそこが魅力なのよねぇ…!」


テーブルいっぱいに並べられた甘味たちを次々と身体の中へと消していきながら喋りまくる甘露寺に、月子は開いた口が塞がらない。
そんな華奢な身体のどこに入っていくのだろう、とただ驚いて不思議に思っていた。


「私、月子ちゃんと仲の良いお友達になりたいの!さっきから私ばかり質問しちゃってたし、月子ちゃんも何か聞きたいことがあったらドーンといっぱい聞いてね!」
「お友達に………」
「ええ!でも、嫌ならいいの。無理強いは、しないわ…っ」


―――そんな泣きながら言わなくても。
月子は甘露寺のテンションに困惑しながらも、彼女の言った”友達”という言葉を考えていた。

前世、そして生まれ変わった今世。
その両方で、”友達”と呼べる人物がいたかと聞かれれば答えはハッキリと否と言える。前世の記憶はもう断片的にしかないが、誰かと”仲良く”などした記憶はない。
今世では家族や鱗滝さん、錆兎や真菰たち。それ以外に関わった人と言えば鬼殺隊の関係者だけ。

”友達”の定義なんて分からない。分からない、けれど甘露寺の言葉は素直に嬉しかった。月子はそこまで思って、じんわりと温かくなる胸に手を添えた。


「…わたしも甘露寺さんと仲良くなりたいと思ってる、と思います」
「っふふ!自分のことなのに誰かのことみたいに言うのね!月子ちゃんったら面白くて可愛い…!」
「誰かに、仲良くなりたいとか友達になりたいと言われたのは初めてのことなので…」
「ええ!?ということは私が月子ちゃんの初めてのお友達!?きゃーッ!え、すごく嬉しい!私、今なら空も飛べそうな気分…!」

「――…ふっ」


両手をパタパタと羽ばたかせて鳥の真似をし始めた甘露寺に耐え切れず、月子が笑いを零した。

―――カシャン。これは食器同士がぶつかった音である。甘露寺が手に持っていた匙(スプーン)を手からすり落して、下にあった皿にぶつかったのだ。


「……甘露寺さん?」


顔を真っ赤にして固まってしまった甘露寺を心配して、月子はテーブルから身を乗り出して彼女の頬に手の甲を触れさせる。


「熱は、ないな…」


少し熱い気はするけれど、と月子が見当違いなことをしている間にも甘露寺の心臓は今にも胸を突き破って飛び出していきそうなほど高鳴っていた。

自分よりも強い殿方が好きで、鬼殺隊に入ったのも生涯を添い遂げる殿方を見つけるためで。殿方といえばそれは男性ということになるのだけど。
月子の美しい顔が、自分を気遣うように悩まし気な表情を浮かべていて。それが今、視界いっぱいに映っている。

―――可愛い。格好いい。綺麗。素敵。そういった感情が、尽きない。
やだ、私ったら女性でもそういう対象だったってことかしら!?…いいえ、違うわきっと。月子ちゃんが魅力的過ぎるからよ…!んもう、なんて罪作りな!!


「甘露寺さん、」
「だっ大丈夫よ!ちょっと月子ちゃんの魅力にやられちゃっただけなの…っ」


惚れっぽい自覚がある甘露寺もさすがに女性が恋愛対象ではないはずだと自分に言い聞かせてブンブンと勢いよく頭を左右に振った。
月子は月子で、そんな甘露寺に疑問を抱きつつも体調を崩したわけではないことにホッとする。


「ごほんっ!月子ちゃん!仲良しの第一歩として、まずは私を名前で呼んでほしいの!それから敬語も無し!ね?」
「いや、それは…甘露寺さんは柱でわたしより上の立場の人なので出来ないです」
「もう!そんなの気にしなくていいのに!”お友達”は、そんな他人行儀に敬語使ったり名字で読んだりしないものよ?」


甘露寺にそう言われ、言い返す言葉も見つからなくなってしまった月子は少し言葉を詰まらせると諦めたように小さく溜め息を吐く。
千寿郎の時みたいにこれに気づいた杏寿郎がまた騒ぎ出さないかと月子にとってそれが懸念だったが、その時はその時だと考えるのをやめることに。

顔を上げた月子の美しい黄金色の瞳が、きっちりと甘露寺の瞳を捕えた。


「――…蜜璃」


ズキュン。これは甘露寺がハートを射抜かれた音。


「私、大丈夫かしら…。月子ちゃんといたら心臓がいくつあっても足りない気がするわ…」


深刻そうな顔をした彼女の囁きが、月子の耳に届くことはないのだった。



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