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おまけ





「ええっ!?竈門さんは兄上に嫁ぎにいらっしゃったわけではないのですか…!?」


やっぱり勘違いされていた、と彼の反応を見てわたしは深く息を吐く。
夕餉の支度をするという煉獄さんの弟くんの手伝いに来たら、『兄上のお嫁さんにそんなことさせられません!』と言われて慌ててそれを否定したところだった。


「すみません、僕てっきり…。でも、考えてみればそうですよね。竈門さんは鬼殺隊の隊服を着てましたし、刀も差してましたし…」
「……煉獄さんの伝え方が悪い」


ただでさえ下がっている眉を更に下げて至極申し訳なさそうに謝罪を繰り返す弟くんは、とても礼儀正しくしっかりしている印象だ。

一体いつから彼らの父親があのような体たらくなのか詳しいことは知らないけれど、母親を亡くした後はきっと煉獄さんと弟くんで色々と乗り越えてきたことも多々あったのではないかと思う。
年齢は禰豆子と同じくらいかそれよりもっと下か。その幼さでこれだけしっかりしているのは、やはり環境が彼をそうさせたのだろう。


「弟くん、わたしは何をすればいい?」
「あ、えっと…あの!僕のことは千寿郎と気軽に呼んでくれませんか…っ?」


聞いたこととは無関係な、それでいて予想外な言葉が返ってきて少しびっくりする。
野菜を水洗いしていた弟くんは頬を真っ赤に染め上げて、照れ臭そうに視線をチラチラと逸らしながらわたしを見上げていた。

―――かわいい。わたしの妹弟たちには及ばないけど、不覚にもそう思ってしまった。


「…千寿郎。とりあえず、包丁を使う作業は危ないからわたしがやる」
「、っ…はい!ありがとうございます!」


パァっと、まるで花が咲くような笑顔でお礼を言う千寿郎。
弟や妹が多かったが故に小さい頃からしっかり者だった炭治郎と千寿郎が重なる。

こういう子ほど甘やかしたくなってしまうのはわたしの性なのかもしれない。もっとも、千寿郎には煉獄さんという立派なお兄さんがいるからそれはわたしの役目ではないのだけど。


「千寿郎、煉獄さんにいっぱい甘えるんだよ。あまりしっかりし過ぎないように」
「えっ………」
「妹や弟に甘えられたり頼られることは、兄や姉にとってとても嬉しいことだから」


伝えて、炭治郎や禰豆子たちのことを頭に思い浮かべる。
…なんだかすごく会いたくなってきた。この一ヶ月の間に一度、炭治郎たちの顔を見に行きたいとお願いしたら煉獄さんは了承してくれるだろうか。


「竈門さんにも、弟さんや妹さんがいらっしゃるのですか?」
「ん。本当に…目に入れても痛くないくらい可愛い子たちがいる」
「………。…竈門さん、」
「月子でいい」
「…っ月子さん!本当に兄上のお嫁さんになってくださいませんか!?」
「………は、え?」


聞き間違いかと、耳を疑うようなことを言われたような気がする。
驚き過ぎて何も答えられないでいると、千寿郎は両手の拳を胸の前でギュッと握りしめていて、何故かキラキラと輝かせた瞳で見つめられた。


「千寿郎。わたしは、」

「む!?よもやよもや!俺のことは名で呼べぬというのに千寿郎のことは名で呼ぶのか!それは些か不平等というものではないか!」
「…あ、兄上!?いつの間にここへ!?」


―――それから。

千寿郎を名で呼ぶことに”ずるいずるい”と騒ぎ立てる煉獄さんを無理やり勝手場から追い出し、『月子さんが兄上のお嫁さんになってくだされば、月子さんは必然的に僕の義姉上ということになりますよね…!』と一人で突っ走る千寿郎を落ち着かせて。

ドッと疲れてしまったわたしはその日、久しぶりに深い眠りについた。



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