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自主鍛錬から戻った炭治郎は、用意されていた姉お手製の朝餉に『いただきます』と手を合わせてから美味しい料理に舌鼓を打つ。

玄関に知らない履物があったのと、知らない人匂いがしたから客が来ているのだろうと炭治郎は邪魔しないようにと物音立てず静かに食事を勧めていた。



隣の部屋では、月子が鞘から刀を抜き、まさに刀の”色変わり”を目の当たりにいているところだった。


「白っ…」
「白だな」
「白、だけど…」


透き通るような純白に色を変えた刀身。
ただ、鍔に近い根本の方の刃は少し赤みがかった色になっている。

鋼鐵塚が見たかったらしい赫刀ではなかったが、彼が見たかった”赤”は少なからず月子の日輪刀にその色を見せていた。


「赤は赤だが、俺が見たかったのは真っ赤な赫刀なんだよ…ッ!クソーーー!!」
「鬼を斬れば赤く染まる」
「そういうことじゃねェ…!」


月子はジッと手に持つ刀を見た。真っ白になりきれないその刀身はまるで自分を表しているかのように思える。

鋼鐵塚が手に持ったままの鞘を取り、チンと音を立ててそこに刃を納めた。


「ありがとうございます」
「……フン。折ったり傷付けたりしやがったらただじゃおかねェからな」
「ちょっとやそっとのことで折れたり傷付くようなら、これがなまくらだったという―――」

「はァん!?俺が打った刀をなまくらだと抜かしやがったか!?あーもう、やめだやめ。おまえのこと俺の嫁にでもしてやろうと思ってたが、もうしてやんねェよ!」


嫁ってまた突拍子もない。
月子が『はあ…』とさして興味もないように返事をするのと打って変わり、隣でその会話に聞き耳を立てていた炭治郎は我慢ならなかった。

―――バン!と力強くも壊れない程度に戸を開けて、炭治郎は月子が見たこともないような形相で鋼鐵塚に押し迫る。


「月子姉さんはまだ十五です!嫁なんて、あり得ませんから!!しかも、あなたみたいな変なひょっとこに!!」
「ああ?なんだおまえ、こいつの弟か。その歳にもなって姉離れできねェとは情けねェ!」

「そもそもあなたいくつなんですか!?」
「三十五だ!」
「三十五!?」
「歳なんか関係ねェだろ!」
「そりゃ俺だって月子姉さんがあなたに好意を抱いていてって言うならこんな風に真っ向から否定なんてしませんけど!一方的に嫁にもらう気でいたなんて迷惑です!」

「だからもう嫁にしてやんねェって言ってんだよ!俺の打った刀をなまくらなんて言いやがる女なんかこっちから願い下げだバーカ!」
「ばっ…バカって何ですか!?あなた本当にそれでも三十五ですか!」


荒波同士がぶつかり合うようなこの口論に割って入って止める気にもなれず、月子は何も言わずしばらくその様子を眺めている。


「はあー……」


十三の少年と張り合う三十五の男。
その悪い意味で年相応ではない男の言動に、鱗滝は深い溜め息を吐いた。

この刀鍛治の鋼鐵塚蛍という男は、刀を打つこと以外に興味を持つことはない。
世間一般で呼ばれるところの思春期の時期であっても、彼は女というものに興味を示すこともなく、暇さえあれば刀を打つような男だったと聞く。

そんな刀馬鹿な男が、冗談で月子を嫁になどと言うわけがない。
本人に自覚があるかは分からないが、鋼鐵塚は相当気に入ったのだろう。月子のことを。


「鱗滝さん、わたしは少し外に出てる。この二人が落ち着いたら呼んで」


渦中の人物であるはずの月子が素知らぬ顔をしてそういった状態であるため、鱗滝は再び疲れたように溜め息を吐いたのだった。





■ ■ ■




外に出た月子はもらったばかりの刀を再び抜いて、綺麗な白を陽の光に翳して見た。
白でありながらその色は濃くなく、刀身がまるで透けているようにみえるほど透き通った色味。

こんなに美しい刀は見たことがない、と月子がほう…と息を漏らす。
すると、ガラガラ!と荒らしく戸が開く音が聞こえて月子はそちらに目を向けた。


「…………」
「…………」
「…………」
「………帰る」


目が合って沈黙の後、呟くようにいった鋼鐵塚の言葉に月子はぺこりと浅く頭を下げた。
炭治郎との口論でさすがに疲れたのか、鋼鐵塚の雰囲気にいささか覇気が感じられない。

そういえば、家に入ってすぐに刀をみせてもらったからきっと彼はあのみたらし団子に手をつけてなかったのではないか。
ふとそう考えた月子は『待ってて』と手短に鋼鐵塚に告げて、家の中に入り、数分もしないうちに彼の元へ戻ってくる。


「持って行って。帰りも長いのだろうから」
「…………」


いつの間にか敬語を使うことを忘れていることに自覚のないままの月子は、みたらし団子の入った包みを受け取ろうとしない鋼鐵塚に痺れを切らして無理やり手に握らせた。


「とても素敵な刀をありがとう」
「折ったら殺す」
「気を付ける」
「……おまえがそいつを大事にするってんなら、俺の嫁にすること考えなおしてやる」


―――え、いやそれは別にいい。
そんな月子の返答を待たずして、鋼鐵塚は自分でもよく分からない高揚感そのままに刀鍛治の里へと帰っていった。



家に戻った月子が炭治郎に『姉さん、お嫁になんて行かないよな!?』と泣きつかれて、『鬼舞辻を殺すまでは』と弟を抱き締めたのは余談である。



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