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不死川は右手に刺さる刀をググ…と引き抜きながら、視線の先にいる月子をギロリと睨む。

こいつ、トチ狂ってやがんのか?
お前も鬼に家族を殺されたはずだろ。
何で鬼を庇うようなことしやがる。

月子の行動は僅かも理解できない。
その上に、これでもかというくらい全身に浴びせられるのは彼女からの凄まじいほどの殺気。

赤黒い双眼が、射殺さんばかりにこちらに向けられている。


「命懸けで鬼と戦って、こんな重症を負っているのに治療も受けられないままこんな硬い砂利に転がされてるのはわたしの弟。そして、あなたがさっき傷付けようとした箱の中にいるのは鬼でありながらも炭治郎と共に鬼と戦った、わたしの妹」


月子からの言葉に驚いたのはこの場にいた全員だ。
不死川も勿論その一人ではあるが、驚きと同じくらいに沸き立つのは怒りの感情だった。

月子と最初に茶を酌み交わしたあの日を思い出せば、彼女がどれほど弟と妹を大切に思っているかはよく分ることだ。だが、そのうちの妹が鬼であったなんて誰が予想できたことか。


「てめぇ、鬼が人をまもるために戦えるなんざ本気で思って言ってやがんのか…?」


家族が鬼に殺されるという気持ちは十分に理解できる。自分も同じ境遇だから。
しかし家族が鬼になるという気持ちまでは理解できることじゃない。それにしても、だ。たとえ家族であったにしても、鬼は―――ダメだ。


「何か、勘違いしてるようだけれど…わたしは話し合いなんてする気はない」
「……ああ?」
「話し合いを先に放棄したのはあなた達」
「…………」
「鬼だから殺せと馬鹿の一つ覚えみたいに吠えるだけで、相手の事情も理由も言葉にも耳を傾けるつもりもない単細胞」


あまり長いこと会話したことはないが、それでもいつもの月子とはまるで別人だと思うくらいの冷ややかな声と罵倒の言葉。


「だったらわたしも、難しく考えることを放棄してもいいでしょう?あなた達が鬼だから殺すの一点張りなら、わたしも同じようにするだけ」


ゆっくりとした足取りで不死川に近付いていく月子は、彼の近くに投げ捨てられた自分の刀を拾う。

月子から漂う殺気が濃くなり、不死川も反射的に自分の刀を抜いていた。
鬼の入った木箱のことはもはや頭になく、目の前の彼女をどうするかで思考が支配される。


「―――弟と妹を傷付けた奴は鬼だろうが人間だろうが、殺す」


それがわたしの守り方だ、と低く呟いた月子が顔をわずかに歪ませたことは彼女を一番近くで見ていた不死川だけが気付いたことだった。


「っ、姉さん!だめだ…ッ月子姉さん…!!」
「――…、う…ぐぅ…っ!?」


弟が月子に向かって叫んだ瞬間に、彼女は苦しそうに呻き声を上げて喉のあたりを苦しそうにかきむしり始める。

手に持っていた刀を落として月子が地面に膝をついた途端、ピンと張り詰めていた糸が切られたように彼女の纏う冷たい空気がなくなっていった。


「………?おい、」

「―……っ月子!」
「竈門さん…!」
「月子ちゃん…!?」


苦しみ、気を失った月子にいち早く駆け寄ったのは杏寿郎だ。そして胡蝶、甘露寺が続けて声を上げる。

不死川は伸ばしかけた腕を下げギュッと拳を強く握ってから、月子たちに対して背中を向けた。


「そこの隠の人、すみませんが竈門さんを蝶屋敷に運んでください。大部屋ではなくどうにか個室を空けて、そこへお願いします」
「俺が運ぼう」
「冨岡さん、殴られたいんですか?あなたも隊律違反の一人なんですよ?それ以上ふざけたこと言い出したら縛り上げますからね」
「……………」
「では、俺が運ぼう!」
「……煉獄さん?」
「…冗談だ!」


くだらない会話を後ろ手に聞きながら、不死川は微動だにしない木箱に再び手を伸ばす。

―――あいつのあの目。
弟と妹を傷付けたら殺す、と言った時のあの目は…本気の目だった。
ここで俺がこいつらを傷付け、鬼だからと妹の首を斬ろうものなら、あいつは鬼殺隊の全員を殺す勢いで刃を向けてくるはずだ。

不死川は舌打ちをして、抜いていた刀をキンと鞘に納めた。


「不死川、やめておけ」
「―…ッるせぇな!分かってンだわ!……クソがっ!」


宇随に止められた不死川は肩に乗せられた手を思い切り振り払う。

―――何だって俺がこんな、罪悪感なんざ感じなきゃならねぇ。

不死川は感じたことのない感情に苛まれてとんでもないイラつきを感じていたが、それはその場に現れた産屋敷の存在によって抑え込むしかなくなったのだった。



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