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鬼と人間は仲良くできるか。
いつぞやか胡蝶さんにそんな質問をされたことを思い出した。

胡蝶さんは自身、その問いの答えは限りなく『否』に近いものなのだろう。

でも、わたしにはそんなことどうだっていいことだ。
胡蝶さんの答えがどちらであれ、炭治郎と禰豆子に危害を加えようものならば、わたしは―――。


「どうして邪魔をするんです?冨岡さん。鬼とは仲良くできないって言ってたくせに…何なんでしょうか。そんなだから、皆に嫌われるんですよ」
「……俺は、俺は嫌われてない」
「ああ…それ、嫌われている自覚がなかったんですね。余計なことを言ってしまって申し訳ないです」


胡蝶さんと冨岡さんが何やらくっちゃべっている間に少し状況を整理してみよう。

まず、胡蝶さんが炭治郎たちを狙ったところを見るに禰豆子が鬼だということはバレている。そしてそれを庇っている炭治郎も問題となってるようだった。


「……竈門さんも。あなたの腕の中に抱えているうちのひとつは鬼なんですよ?鬼殺隊として、鬼を助けるなんてあってはなりません。どうして、そのようなことを?」


そしてこの胡蝶さんの言葉を聞くに、炭治郎たちとわたしがきょうだい関係にあるということはまだバレていないらしい。
わたし達の事情を知っている冨岡さんがこの場にいることは不幸中の幸いだ。

胡蝶さんの言葉に返答をしないでいると、彼女は小さく溜息をついてからわたしが抱きかかえている炭治郎へと目線を下げた。


「坊や。坊やが庇っているのは鬼ですよ。危ないですから離れてください」
「…ちっ違います!いや、違わないけど……あの、妹なんです…!俺の妹で、それで……ッ」
「まぁ…そうなのですか。可哀そうに。では―――苦しまないよう、やさしい毒で殺してあげましょうね」


ニコリと微笑んで細長い刀を構える胡蝶さん。


「胡蝶さん、この子達に手を出したら殺します」
「……ッなんてことを言うんですか、竈門さん。妹だから、とその子が鬼を庇うのは分かります。けれど、竈門さんがその子たちを庇う理由は何なんですか?」


淡々と言い放つわたしの言葉に胡蝶さんの表情が崩れた。

蜜璃やめいのように、胡蝶さんとも友達になれると思っていたところだったのに。
……そこまで関わった人と刀を交えることに躊躇いがないわけではない。
しかし彼女が、鬼殺隊という組織が、わたしの大切なこの子達に害をなすというのであれば話は別だ。

わたしは、炭治郎と禰豆子を守るためならば何だって出来る。


「冨岡さん、胡蝶さんは任せていいですね?」
「……ああ」
「ちょっと、竈門さん…っ」


冨岡さんに胡蝶さんを任せて、わたしは炭治郎と禰豆子を抱えたまま走って山を下りることにした。



■ ■ ■



「姉さん、あのっ……」
「喋ると舌を噛むよ。―――、!」


胡蝶さんたちの場所から離れて数分経った時、後ろから素早くやってくる気配に気付いて、それを避ける。

ダダッと地面に着地した人物は、どこか胡蝶さんを連想させるような笑みを浮かべた少女だった。


「…………」


すでに鞘から抜いている日輪刀、鬼殺隊の隊服。
彼女も胡蝶さんと同じく、鬼である禰豆子を殺しにきた者で間違いない。

炭治郎、そしていつの間にか目を覚ましていた禰豆子の二人をゆっくりと地面に下して鬼殺隊の少女と向き合う。


「―――覚悟はできてる?」


問うや否や、少女は真正面から刀を振りかざして突っ込んでくる。
なかなかの速さではあったけれど、そこまでのものじゃない。

わたしは彼女の斬撃を思い切り弾いて、体勢を崩してがら空きになった腹部に自分の刀の柄の頭部分を力任せに叩き込んだ。


「う、…ぐっ……!」


腹を押さえて低く呻いた彼女は地面に蹲り、動けなくなる。

そして再び炭治郎たちを抱えようとした時―――。


「伝令!伝令!本部ヨリ伝令アリ!炭治郎、鬼ノ禰豆子、両名ヲ拘束。本部ヘ連レ帰ルベシ!」


鎹鴉の伝令が山中に響き渡った。

本部からの伝令ということは、十中八九お館様が絡んでいる。彼は鱗滝さんから『例の手紙』を受け取っているはずで、わたし達の事情もよく知っているだろう。
このまま鬼殺隊から離れて逃げても良かったが、お館様の判断に委ねてみてもいいのかもしれない。

もしまた最悪の事態になれば、その時は……その場にいる全員を殺してでもあの子達を守るだけだ。



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