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■ ■ ■



月子はハッとして目を見開いた。

満身創痍で倒れている妹と弟が目に入り、そしてその二人に後ろから迫る小さな白い鬼を捉えて、それから―――。

自分の足元に転がるのは首と胴が切り離された白い鬼。
その鬼の首の断面と手に持っている刀身が少し凍っているところを見るに自分が斬ったのだろう、と月子は察する。

シャララ…という音が小さく聴こえていた。


「炭治郎、禰豆子…」


ボソッと小さく呟いて、月子は二人の元へと小走りで向かう。


「っ、月子姉さん……?」
「炭治郎!…ッ遅くなって、ごめん」
「姉さん……謝らないでくれ。姉さんは助けてくれたんだから」


今にも泣きだしそうな声で謝罪を口にする姉に笑いかけてそう言う炭治郎。
気を抜けばすぐにでも気絶してしまいそうな痛みは変わらないが、姉の姿を見るとやはり安心して気が休まって自然と笑みが浮かぶのだ。

月子はたまらなくなって、気を失っている禰豆子を守るように覆いかぶさっている炭治郎をギュッと一度抱き締め、それから禰豆子の頭をさらりと撫でた。


「……姉さん、お願いがあるんだ」
「何でも言って――…ッ!?」


月子が即答した途端、炭治郎の両目から大量の涙が零れ出した。
その様子に驚いて思わず一瞬固まってしまった月子だが、炭治郎のお願いに心して耳を傾ける。


「あの鬼の子……あの子から、とても悲しい匂いがするんだ」
「……うん」
「だから、―――」


炭治郎が言葉を選んでいるうちに、月子はすくりと立ち上がって鬼の亡骸のほうへ歩いていく。

本当に、本当に心優しい炭治郎。
彼の言わんとしていることが月子には何となく伝わったのだろう。

すでに口の下まで灰になって消えてしまっている鬼の頭を月子は片手に抱えて、炭治郎の近くまで運んで地面に下した。


「わたしの”優しすぎる”弟がお前の最期の言葉を聞いてやるらしい。言いたいことがあるなら消える前にとっとと言って」


弟と妹をここまで傷付けられて、月子の怒りはどうやらまだ治まっていないらしい。

姉から発せられる刺々しい口調に苦笑した炭治郎は彼女から目線を変えて、白い鬼へと穏やかな目を向ける。


「……ご、ごめんな、さい……」
「全部、全部…僕が悪かったんだ…」
「―――どうか、ゆるしてほしい」


戦っていた時とはまるで違う弱弱しい声音が、ポツポツと言葉を紡いでいく。

炭治郎は何も言わずに鬼の子の頭に手を置いて、それからはあっという間に鬼は灰となって消えていった。


「……………」


月子は深く考える。

鬼であった者は首を斬られた瞬間に死に、そして人間に戻り―――消えてゆく。

彼が鬼となった理由は分からないし、知りたいと思うこともない。
『ごめんなさい』と謝ったところで彼が奪ってきた命は戻ることはないし、『ゆるしてほしい』と懇願されても簡単に許せるようなことでもない。

ただ、消えゆく瞬間に”人”として紡いだ彼の言葉をしっかりと受け取ってやることに罰は当たらないのではないだろうか。

妹と弟を傷付けたことを許すことは到底できたものではないが、と月子は最後にしっかりと姉馬鹿を発揮して思考を閉じた。


「冨岡さん、炭治郎の気持ちを踏みにじるようなことをしたらタダじゃおきませんよ」


そして、いつの間にかこの場に現れていた冨岡に鋭く言い放つ月子。

そこで初めて炭治郎は冨岡と呼ばれた男の存在に気付くこととなる。

冨岡は月子の言葉を受けて、先ほどの鬼が着ていた着物を今まさに踏みつけようとしていた体勢のままピタリと止まった。


「―――ッ、!」


そして月子は冨岡とは別の気配を感じ取り、炭治郎と禰豆子の二人を軽々と抱えて瞬時に飛び上がる。

二人のいた場所には刀の切っ先が飛んできており、その攻撃を冨岡が刀を抜いて受け流した。


「………あら?」


月子の耳に聞こえてきたのは、最近よく話せるようになったばかりの、蝶のような彼女の声。


「―――胡蝶さん」


彼女は間違いなく、炭治郎と禰豆子を攻撃した。

炭治郎たちを攻撃されたことにより殺気立つ月子。
その様子にゾワリと背筋を凍らせた胡蝶は、久しぶりに感じた”人”への恐怖に表情が崩れそうになったが得意の笑顔で何とか堪えていた。