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―――七日間、生き残ることだけを考える。



陽が沈み辺りが暗闇に包まれた中。
鬼の匂いや気配にいち早く気付けるように警戒しながら俺は山の中を駆けていた。最も朝陽が昇るのが早い、東の方へと。

そしてその途中、二人の鬼に襲われ…初めて水の呼吸によって自分の手で鬼を斬ることができた。


「………ッ」


自分自身が強くなっている実感。守られるだけじゃない、俺も姉さんや禰豆子を守れるようになるための大切な一歩をやっと踏み出せたような気がして、感動で涙が滲んだ。

それから、塵となって消えてしまった鬼たちに手を合わせて彼らの成仏を願う。
家族を殺した鬼は憎いけど、鬼は虚しくて悲しい生き物だと思うから。せめて来世では、幸せになってほしい。

月子姉さんにその話をした時、姉さんは『優しい心を持った炭治郎が大好き』ってほんのちょっと笑ってくれたっけ。


「―…、ん?この匂い、」


ふわり、とふと香った匂い。

俺の勘違いじゃなければ月子姉さんの…ってここに姉さんがいるわけがない、よな。
今改めてスンスンと鼻を鳴らしてもさっきの匂いはしない。だとしたら、あまりにも俺が月子姉さんのこと考えてたから幻聴・幻覚ならぬ幻嗅みたいなもの…だった?


「こ、こんな時に俺は何を…!恥ずかしい!穴があったら入りたい…っ!」


姉離れできてないという自覚があったとはいえ、頭で考えたり思うだけで姉さんの匂いがするなんて。

ブンブンと頭を左右に思い切り振って、それから近場の木にゴンッ!と勢いよく頭突きをする。
今はこの最終選別を乗り越えることだけ考えろ。夜は長い。油断や隙を見せたら鬼に狙われ―――。


「、うっ…なんだ!?この腐ったような臭いは…ッ!」


その場に立ち込める激臭に鼻をつまんだのと同時に、大きな悲鳴が聞こえた。


「き、聞いてない…!こんなの聞いてないぞ…っ」


臭いと声のする方へ視線を向けると、俺と同じ最終選別を受けている男の人とそのあとを追う大きな…手だらけの―――あれが、鬼!?

巨大な鬼は手に持っていた人間を喰い、逃げ出したもう一人に手を伸ばしてその足を掴み、彼の身体は宙へと投げ出された。
―――あのままでは彼は、鬼に喰われてしまう。


「………っ、!」


震えの止まらない手を刀の柄に添える。同じように震える足にグッと力を込めて、地面を踏み込める態勢を整える。

怯むな。助けろ、助けろ、助けろ…!!俺はもう無力じゃない。―――動け!!




■ ■ ■



炭治郎を探して見つけるまで、そこまで長くはかからなかった。

初めて鬼を斬り、そしてその後すぐ、わたしが二年前に遭遇しわたしを恐れて退いたあの異形の鬼と炭治郎が対峙している。


「…………」


この異形の鬼は、鱗滝さんに私怨があり、彼の弟子ばかりを狙っていた。

そして錆兎や真菰もその犠牲者。
その二人の最期を面白おかしく話し出す異形の鬼に、それまで黙って聞いていた炭治郎は怒りの表情で刀を手に走り出した。

怒り任せて我武者羅に、伸びてきた手を斬りながら進む炭治郎は隙だらけのその身体に鬼からの一撃を喰らい吹き飛ばされる。


「ッ……、!」


目の前が一瞬、チカッと赤く光って。ふう、と鼻から漏れる息が荒くなる。
錆兎や真菰のこと、そして炭治郎を傷付けられた怒りで震える手が無意識に刀を抜いていた。

わたしがあいつを斬れば事が済む。これ以上、炭治郎が傷付くこともない。
もう足が今すぐにでも地を蹴りそうになった、その時だった―――。


『月子、これは炭治郎の闘いだ』
『炭治郎ならあいつに勝てるよ。信じて、月子』



脳内に響くように聞こえてきた錆兎と真菰の声が、言葉が、わたしを踏み止まらせた。

…何をしているんだ、わたしは。
炭治郎が、わたしと共に歩きたいと、禰豆子とわたしを守りたいと。強くなるためにどれだけの鍛錬を重ねてきたのか自分が一番よく知っていたはずなのに。あの子のこと、誰より信じてあげなければならなかったのに。

わたしはさっきまで、異形の鬼に炭治郎が”勝てない”ことを前提に手を出そうとしてしまっていた。


「…っごめん、炭治郎」


刀を静かに鞘に戻して、呼吸を整える。
炭治郎の”闘い”を何一つとして見落とすことのないように、瞬きをすることも忘れて見守った。

そして―――。


「炭治郎………」


飛び上がった彼が、美しい水飛沫を上げて刀を振り、強固な腕で守られた異形の鬼の頸を斬った。
塵となり消えていく鬼の手を、苦しそうな辛そうな…そんな表情をした炭治郎がキュッと握る。

その光景に、自分でも分からない感情がこみ上げてきて。気が付けば―――わたしの冷たい頬は、涙で濡れていたのだった。


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