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「さっき、わたしを止めたのは何故?”音”柱のあなたなら、あいつらがわたしに何て言ったか聞こえてたでしょう」


月子の問いかけに、宇髄は鼻で息を吐く。

確かに、耳の良い宇髄には少し離れたところからでもあの下衆共が彼女に何と言ったか聞こえた。それと同時に、柱の自分でも思わず背筋が凍ってしまうような強く恐ろしい殺気が彼女から放たれたのも分かった。

普段は楽天的である宇髄だが、あの時ばかりは肝が冷えたのだ。まさか月子が人間に手をかけようとするなど思いもよらなかったから。


「俺があのまま放置しててみろ。おまえ、あいつらのこと確実に殺ってただろうが」
「…何か悪いこと?」
「ああ?…それってよ、俺に聞かなきゃ本当に分からねェことか?」


―――鬼から人を守るための鬼殺隊が、人殺してどうする。
宇髄の鋭い眼差しと声音が月子に浴びせられる。そこには少しの殺気も混ざっていた。

しかし月子は臆さない。彼女は宇随から一歩下がり、それから腰に差してあった日輪刀をスッと抜いて、その切っ先を道端に生い茂る雑草に向ける。
―――ザンッ、と横に振られた刃が雑草をバラバラに斬り散らかした。


「人を殺すから鬼を斬る。なら何の罪もない人を殺す人も鬼と変わらない」


そう言う月子の瞳は、まるでそこに炎を灯したように揺れ動いている。
その瞳に見惚れてしまっていたことと、彼女の述べた正論に返す言葉を考えていたのとで宇髄は少しの間黙りこくった。

そしてしばらくすると、大きく息を吐いた宇髄は殺気立った月子を落ち着けるように彼女の頭に手を置いたのだった。

「世の中にゃ死んだ方がいい人間ってのは確かにいるな。それは間違いではねェよ。おまえの言い分もよく分かる。…だが、人殺すのはやめておけ」


―――彼はまるで、経験者のように語る。
敏い月子は宇髄の声音を読み取り、そう思った。

静かに刀を鞘に納め、自分の頭に乗る大きな手を掴んで下ろさせる月子。


「…忠告ありがとうございます。でもわたしは、わたしの大切なものを守るためならきっと人間だって殺します」


それ(人殺し)は一生、そして死んでも償えることのない罪。その罪を背負っていくことよりも―――”守れず、失う”ことの方が辛く苦しいから。

月子の言葉に宇髄は少し目を見開くと、それから溜め息と共に小さく笑う。
彼女の”大切なもの”に対しての強い想いがひしひしと伝わってきたのだ。


「いいか、月子。おまえが誰かを大切だと思うようにおまえも誰かに大切に思われてることを忘れんなよ。自分の危険を顧みないような無茶はあんまりすんなってこった」


宇髄の目も声も、真剣なものだった。

自彼の言う、自分の危険を顧みないような無茶。それをしない約束はできない。この先何が起きるか分からないけれど、きっとそんな無茶をたくさんしなければ鬼舞辻を殺すことなど出来やしないと思っているから。

しかし月子は己の心に、宇髄の言葉もしっかりと刻んだ。大切な人が傷付くのは誰だって悲しいし苦しいのだ。


「…俺の言ったこと、理解したみたいだな。さすが俺が見込んだだけあって派手に良い女だ!」
「……いきなり何ですか」
「俺の四人目の嫁にならねェか?そりゃあもう派手に愛してやるぜ?」
「四人目って……」


自分が四人目なら彼には既に三人も嫁がいるということになる。
いくらここが昔の時代だからって一夫多妻はとっくに終わってるだろう。わざわざそんな嘘を吐く必要があったのだろうか。

月子に疑いの眼差しを向けられて、宇髄は鼻で笑い彼女の頬を人差し指でつついた。


「信じてないな?いいぜ、今度会わせてやるよ。俺の嫁たちに」
「……はあ。ところで、あなたのお名前を聞いてなかったと思うんですが」

「ん?ああ!おまえとは初対面じゃなかったから派手に忘れてたな。俺は宇髄天元。祭りの神だ!ちなみにさっきの嫁の話、冗談で言ったわけじゃねェからちゃんと考えておけよ」
「……はあー…」


―――今日、何回溜め息吐いただろう。
そう考えて月子は空を見上げて、もう一度深い溜め息を吐いたのだった。



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