別れの時
わたしが守護霊を呼び出した(らしい)あの夜以降、リドルから教えてもらった呪文をいくつか試してみても魔法が使えることはなかった。
リドルが言うには、魔力がわたしの中にあるのは確かだけどそれがどういう条件で使えるようなるのかは分からないみたい。
それにしても、忘れられないくらい守護霊の魔法は本当に綺麗で幻想的だったなぁ。
そんなことを思いながらフラフラと歩いていれば、グイッと腕を引かれた。
「カヤ、逸れるなよ」
「うん!」
今日はリドルとデートの日だ。
きっかけは昨夜リドルが「行きたい所はないけど出掛けたい」と言い出したから。
彼から外出したいと言ってきたのはピアスを買いに行った日以来で、珍しいとは思ったけど珍しいからこそわたしは二つ返事でOKした。
出掛けた場所は最近できたばかりのテーマパーク。
テレビとか雑誌でもすごく特集されてて、リドルと1回行ってみたいと思ってた所だ。
だからこそ、日曜日の今日は人で溢れ返っていて正直引くレベルで混んでいた。
「すごい人…」
「はあー…」
「ご、ごめん、リドル!やっぱり別の場所にする?」
「いや、平気だよ。此処に来たかったんだろう?」
「でもほら、リドル人混みとか騒がしいの好きじゃない…でしょ?」
「別に僕は、カヤが傍にいればそれがどんな場所であろうと構わない」
柔らかに微笑むリドルの表情とその言葉に、わたしの顔は一気に熱を持ち始める。
本当にこの人は、本当に…もう。
いつもいつもこっちが嬉しくなったり恥ずかしくなるようなことをスラスラと言ってくるんだから。
熱くなった頬を両手で包みながらジトリとリドルを睨めば、キョトンとした顔になった彼が口角を上げた。
「ちょ、」
前髪を上げてるせいで無防備に晒されたわたしの額に、リドルがリップ音を立てて唇を寄せる。
「そんな顔するカヤが悪い」
ごちそうさま、と呟いて舌なめずりをする彼に顔だけじゃなくて全身が熱くなっていく。
め、めっちゃ人見てる…っ!
ありえない恥ずかしい、ばかリドル。
そう言いたくても言葉にならなくて、わたしは熱が冷めるまでしばらくリドルの顔を見れなかった。
***
「あっはは、リドル…髪!」
「…………」
手始めに乗ったジェットコースターはすごくスピードが速いのが特徴で、乗り終わった後のリドルの髪が乱れに乱れて鳥の巣のように変わり果てていた。
いつもクールなリドルの髪がぐちゃぐちゃになっているのがツボにハマって爆笑していれば、彼は不機嫌そうに眉間に眉を寄せている。
おっと、ちょっと笑い過ぎたかも…。
リドルが不機嫌になると後が怖いのはわたしもよーく知ってることだ。
「むくれてないで次いこう?」
「カヤ、」
「へ、あー!」
頭に伸びてきたリドルの手が、さっき整えたばかりの髪をクシャクシャにされてしまった。
これで人のこと笑えなくなっただろ?とニヤリと笑うリドルに、なんだかおかしくなってきてわたしはまた笑う。
すごく楽しい。
そしてリドルも、その表情を見る限りでは楽しくないわけではなさそうで少し安心した。
それから。
「えーなにこれ分からない…」
「簡単だろう。答えは7だ」
「…わ、合ってる。すごい」
「もっと難しいのはないのか?これだと暇つぶしにもならないよ」
「ぐっ、腹経つー」
アトラクションの待ち時間はこうしてスマホのクイズゲームやパズルをして時間を潰し。
「ん、おいしい!」
「ほんとよく食べるよね、君」
「リドルも食べる?はい、あーん」
「………っ」
「え、なにもしかして恥ずかしがってる?」
「うるさい。そんなわけないだろ」
遊び疲れた身体を休ませがてらテーマパーク内の少し高めのお店に入って昼食をとり。
「リドル、写真撮ろ!」
「写真?」
「うん。リドルとの思い出、沢山とっておきたいんだ」
「カヤ…」
そして、1枚…また1枚と2人の写真がわたしのスマホに増えていった。
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