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幸福の魔法




あの時買ったルビーのピアスを持って、リドルが部屋に引きこもりがちになって3日が経ち。
不満足そうな顔をした彼が、大きな溜め息と共にわたしの手にピアスの片割れを渡しきたのは今朝のこと。


「もうつけていいの?」
「ああ。…成功とも失敗とも言えない出来だよ」


イライラしたように初対面のときよりいくらか伸びた前髪をかきあげたリドルの目の下には、うっすらと隈ができていた。

邪魔しないようにってに言われてたからこの3日間はあまり自分から彼のところへ行くのは控えてはいたけど…。
少しやつれて見えるリドルを前にして、嫌がられてもきちんと食べて寝ることくらい強制させればよかったと後悔した。


「僕は右につけたから、カヤは左」
「え、見せて見せて」


リドルが右耳に髪をかけると、そこには小さいけどキラキラと輝く赤い石が装飾されていた。
耳に髪をかける仕草と、彼の流し目が妙に色っぽくて胸がドキリと高鳴る。

くそう…リドルかっこいい、ピアスすごく似合う。
わたしの顔が赤くなったのが面白いのか、リドルは喉でクツリと笑うと前もって空けておいた左耳にルビーをつけてくれた。


「…なんか、あったかい気がする」
「僕の魔力をこめてある。それをうまく取り込めれば、カヤも物を動かすくらいの魔法なら使えるようになるかもしれないな」
「ほんとに?わたし魔法が使えるようになるの!?」
「可能性は極めて低いけどね」


魔法は使えたら便利だとは思うし、何より夢がある。
可能性は低いのかぁと少しだけ残念に思ったけど、それよりも今はこのピアスがリドルとお揃いであることが嬉しくて仕方ない気持ちの方が大きい。

リドルとわたしで、ひとつずつ。
このピアスはわたしとリドルの2人がいて、完全なものになる。

それはリドルの言ってくれた通り、もし離れたとしてもわたし達を繋いでいてくれる大切な鍵となってくれるような気がした。


「カヤ、嬉しい?」
「うん!ありがとう、リドル」
「そうか。…僕も嬉しいよ」


ふと目元を緩ませたリドルは、そのまま顔を近付けてきてわたしの左耳に唇を触れさせてチュとリップ音を鳴らした。

彼の口から漏れる吐息が耳に吹きかけられて、ピクリと体が反応してしまう。
…やばい、耳にキスされるの好きかもしれない。


「このピアスを通して、僕の(魔力の)一部がカヤの中にも流れる…これとんでもなく支配欲が満たされるよね」
「な、なんてことを言うの…」
「いいの?カヤ。これでもう僕から逃げられないよ?」


逃がすつもりもないけど、とリドルが笑ったのがわかる。
そのまま耳を甘噛みされて更に体温が上がっていき、悔しくて睨みつければ彼はキョトンした後に「唇にしてほしいのか?」と触れるだけのキスをしてきた。

もう、どうしよう本当に。
リドルから逃げられる気が一切しない…逃げる気があるわけじゃないんだけどね。


「わたしには、リドルしか見えてないよ。…本当に、好きすぎて困ってるんだから」


普段こんな風にわたしからストレートに言ったりしないから恥ずかしかったけど、できるだけリドルから目を逸らさずに伝えられたと思う。

わたし頑張ったよね、うん!
目を見開いたまま固まってしまったリドルを不思議に思ったけど、沸騰したお湯のように熱くなる自分の顔をどうにかすることが先だ。

顔を洗いに行こうとすれば、グイッと引っ張られて気が付けばリドルに抱き上げられていた。


「な、ちょ…リドル?」
「カヤ、したい」
「……はあっ!?なに、え。てかまだ朝…!」
「朝にしちゃいけない決まりでもあるのか?」
「いや、ない…かもしれないけど…っ」

「君が僕をその気にさせたんだから。責任とって」


愉しそうにニッコリ笑うリドルに、これはもういくら抵抗しても無駄だなと察してしまう。

惚れた弱みとはこのことか。
結局そのままリドルに流されるまま、ベッドへ連れ込まれてしまったのだった。