引き寄せの石
リドルと両想いだと分かったあの日から、わたし達は恋人同士になったわけなのだが。
何か変わったことと言えば、わたしが仕事の時は必ずリドルが送り迎えをしてくれるようになったことくらい。
あの時リドルは鎌田くんに忘却呪文をかけたらしく、恐る恐る仕事に行ったら彼はこの間のことなんかすっかり忘れていた。
覚えててもらっても困るけど、あれを忘れてるっていうのも少し納得いかないような気もしたけどあの出来事はとっとと忘れることにするのが最善だろうとわたしも気にしないことにした。
「カヤ、おはよう」
「あ、おはよう。リドル」
キッチンで朝ご飯の用意をしていると寝起きの気怠そうなリドルの声が聞こえて、振り返る。
ところどころ跳ねた髪をくしゃくしゃとかきながらキッチンに入ってくる彼は、ただの寝巻き姿なのにすごくかっこ良く見えた。
イケメンはどんな格好しててもイケメンなんだなぁ。
そんな人がわたしの恋人だなんて、恐れ多いというか少し自信なくなるというか…。
「朝は何?」
「…びゃっ」
スルリと腰にリドルの手がいきなり添えられて、後ろから抱き締められるような状態になる。
わざわざ耳元に口を寄せてくるリドルは確信犯で、わたしの身体は徐々に熱を持ち始めていた。
「…リードールー?」
「せっかくカヤが僕だけのものになったっていうのに。モーニングコールもしてくれないなんて、つれないな」
「も、モーニングコール…」
「そう。キスでもして起こしてくれれば僕が君をベッドへ連れ込む口実ができるな、ってね」
こういうことスラスラと言えるリドルはきっと女の子慣れしてるんだろうな、と複雑な気持ちになったけどその彼の言葉で顔を赤くしてしまうわたしもわたしだ。
他の女の子とわたしは違う!ってところを見せたいのに、リドルの一挙一動にこんなに照れてては説得力の欠片もない。
こんなんじゃ、そのうち飽きられて…。
「変なこと考えてるだろ?」
「…別に」
「カヤ」
リドルはわたしの手をとって、その指先に唇を寄せた。
チュと鳴るリップ音に困惑する。
「僕にはカヤしか要らないよ」
「…っ、リドル」
「君がそんな顔になるのも僕の前でだけだろ?」
スリスリとわたしの頬を撫ぜるリドルの手の甲が、ひんやりとしてて顔の熱を奪っていくようだった。
ああ、本当に…リドルが好き過ぎてどうしよう。
人を好きなって、その人と想いが同じなのってこんなにも幸せなことなんだ。
「リドル…」
目の前のリドルは少しだけ目を見開くと、ふと目元を緩ませてそのままわたしの唇を塞ぐ。
触れるだけのキスの後、リドルは大きく息を吐いてテーブルに突っ伏して項垂れた。
「リドル?」
「なに」
「ちょ。なんでそんなイライラしてるの」
「…カヤが可愛過ぎて腹が立ってるだけだ」
「なっ!」
リドルの言葉にわたしが顔を赤くさせたのを満足げに見つめる彼の瞳は黒く、その深い色に引き込まれそうな感覚に陥る。
「本当に…君には絆されっぱなしだな」
「……っ」
困ったように、でもどこか優しげに緩められたリドルの表情がきゅんきゅんとわたしの胸がときめかせてきて、何か言おうにも言葉が出なくて。
いつまでもこの幸せが続いてくれたら、と。
そう心に祈った、いつもより甘い朝のことだった。
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