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知らない世界

(※No.2のリドル視点)



ホグワーツの図書館で思わず居眠りをして。
目が覚めたら知らない部屋にいて、知らない女が目の前に居た。


「…who、」
「え、?」


間抜けな声を出した女に杖を向けて、紅くなってるだろう瞳を向ければ彼女はビクリと肩を揺らして固まる。

緩くウェーブのかかった胸までの黒髪。
丸く大きな瞳は、見るからに東洋人であるだろう彼女にはそぐわない太陽のようなオレンジ色に輝いていた。

不覚にも
魅入る、その眩しい瞳に。


「where is here」
「who are you」


ここはどこで、君は誰だ。


「this is Japan.あー、っと…My name is Kaya」


たどたどしいく聞き取りづらかったけれど、何を言ってるかは分かった。

此処は日本で、彼女の名前はカヤ。
彼女は確かに東洋人のようだが、ホグワーツにいた僕がいきなり日本にいるなんて見え透いた嘘だ。


「Kidnapping me, what do you want to do?I think that it is a little extreme for fans' actions」
「ちょ、待って待って…!」

「…what?」


この僕が、こんなどん臭そうな彼女に引けを取ってここまで連れてこられたなんて考えたくはなかったが。

その可能性以外の可能性を見出すことが出来ない。

やけにイライラしてベッドに腰掛けた。


「Im Japanese.I only speak simple English」


英語は簡単なものしか分からない、と申し訳なさそうに眉を八の字にして言う彼女。

…それもそうか。言葉が通じないのでは面倒だ。

杖を振って、彼女と自分に翻訳魔法をかけた。


「言葉、これで分かるだろう?」
「あ、わ…分かる」
「そう。それで、君は一体誰?ホグワーツに君みたいな東洋人なんて僕の知る限りでは見たことないんだけど…」
「ホグワーツ、ってなに?」


本当に知らないのか嘘をついているのか。


「何って…、おまえ本当に…何者?」
「…うっ、!」


彼女に近付いて杖をその細い首に食い込ませる。

痛みに歪み、目に涙を溜め始めたその表情に僕の加虐心がズクりと疼くような感覚がした。


「わ、たし…昨日の夜に道で黒猫を拾って家に連れて帰ってきたの。それで自分のベッドに寝かせてわたしも一緒に寝て…起きたら、隣にはあなたがいた」

「…はあ、もっとマシな嘘つけない?」
「嘘じゃないって…!大体なんでわたしがあなたをこんな誘拐みたいなことしなきゃならないの?」

「さあ?だって君、僕のファンなんじゃないの」
「ファンって…。申し訳ないけど、あなたとは今この時が初対面だしそれは100%ないから」

「それじゃあ僕がこんな所にいる説明がつかないだろ」
「だから、わたしだって知らないってば!わたしは猫を拾ってきただけで、あなたをここに連れてきた覚えはないよ」


太陽の瞳が必死に訴えかけてくる。

どうにも彼女が嘘を言っているようには見えないが、信じるにはその確証がなければ無理な話だ。


「…ちょっとこっち向いてくれる?」
「はい?」
「そのまま、僕の瞳を見て」
「…っな、」


彼女の顎に手をかけて無理やり瞳を合わせれば、恐怖と羞恥に頬を紅潮させた。

ふむ、彼女の容姿が端麗だということも関係しているだろうが日本人も自国の女に劣らぬ美しさがある。

さて、と呟いて心の中で呪文を唱えた。

―…レジリメンス。


「あ、…っ」


開心術は相手の心に入り込む魔法。

彼女は小刻みに手を震わせながら、僕の手をギュッと強く握っている。

…まるで小動物だな。
フンと鼻を鳴らして、開心術に集中した。


「…まさか、」


覗いた記憶は、先ほど彼女が説明したものと相違なく…僕は本当に彼女の前にいきなり現れた。

しかし何故、どうやって。
僕は無意識のうちに姿現しでもしてしまったのか?

…馬鹿らしい。


「…君の記憶を見させてもらった。嘘は言っていないみたいだね」

「き、きおく…見た?そんなことできるの」
「ああ、僕は魔法族だからね」
「…魔法?」
「まあ、いい。僕はこんな所にいる暇はないんだ。…帰るよ、お邪魔したね」


マグルであろう彼女とこれ以上話す必要も、ここにいる必要もない。

しかし、キョトンとオレンジ色の瞳を見開いて僕を見つめる彼女に何故かほんの少しの名残惜しさを感じながら目を瞑った。

ホグワーツに姿現しはできないため、僕はとりあえず、と違う場所を頭に思い浮かべる。

バチン!と姿現し特有の不快な感覚。
だが普段とは違うその短い時間を不可解に思いながらも、目を開けると。


「え…、あれ?」
「………」


もう二度と見ることのないと思っていた、太陽が目の前で首を傾げていた。


「…姿現しが、できないなんて」
「へ、なに…?」
「まさか、ここには魔法界が存在しない…?」
「まほうかい?」
「…おい、」
「ひ…!な、なに!」
「帰れなくなった。責任もって帰れる方法、探してよ」
「はあ…!?」


本当に、厄介なことになった。
そう思うのに、この状況を愉しんでいる僕もいて。

とりあえずは、この女…カヤを上手く使って帰れる方法を探らなくてはいけないな。

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