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芽生える感情1



今日はいやに疲れた。
シャワーを浴び終えて部屋に戻り、上半身に何も着ないまま倒れるようにベッドインする。

大勢のマグルがいる中、マグルの店で買い物するなんて。

彼女に「ね?お願い」なんてあの鮮やかな瞳に見つめられて、そこで僕が折れてしまったのがそもそもの間違いだったんだ。


「はあ…」


此処に来てからというもの、僕はどこかおかしい。
原因は分かっている。間違いなくカヤだ。

女という生物が僕に向けてくる笑顔は反吐が出そうなほど媚を売るようなものなのに、彼女は屈託なく笑う。

孤児院にいたマグル共は、怯えて気味悪がって僕を排斥しようとしていたくらいなのに彼女は僕をここに置いてくれている。

僕が脅したのもあるけど。


「おかしいのは、カヤの方…」


彼女の笑顔も、優しさも。
今まで受けたことのない暖かいもので。

僕の憎まれ口に怒るカヤとくだらない言い合いをするのを愉しいと感じる。

そして僕は彼女に対して自分を演じることをしていなかった。
きっとそれは彼女自身が、自分を偽ることなく真っ直ぐにぶつかってくるからで。


「…むかつく」


この感情を何と言えばいいのか分からない。

今日だってそうだ。
知らない男に手を掴まれて痛みに歪むカヤの表情を見て、言い様のないドス黒い感情が心の中で渦を巻いた。

彼女にあんな顔をさせるのは、僕だけでいい。

会って間もないカヤに対してこんな独占欲にも似た感情を抱くなんて、僕自身も驚いたほどだ。

…今だけだ、今だけ。
元の世界に帰れば、僕はいつもの僕に戻れる。

僕は絆されない。

グッとシーツを握りめて、大きく息を吐く。


「寝るか、」


そう呟いてベッドから立ち上がろうとした時。


「リドル!助けてー…!!」

「…カヤ、!」


いきなり彼女の叫び声が聞こえて、僕は弾かれたようにベッドから飛び降りる。

カヤに何かあった。
それだけを考えて僕は彼女のもとへと急いだ。