2人でお出掛け1
普通は、自分のいた世界とは別の世界に来てしまったなんて状況に置かれたらもっと慌てたり取り乱したりするものだと思う。
少なくともわたしならそうなる自信しかない。
――コンコン。
彼に与えた部屋のドアを軽くノックして、
短い返事をもらって中に入った。
相変わらず落ち着き払って静かに読書をしている彼は、自分の置かれている状況なんてさして気にしている様子もない。
「リドル、」
「なに?」
「買い物行くから付いてきて」
「…なんで僕がわざわざ君の買い物のためにマグルの街に出なきゃならないんだ」
「あなたの買い物なんだけど…?」
はあ、と大きな溜め息を吐かれてピキリと米神がヒクついた。
出会ってまだ2日目だけど、リドルのこの俺様気質にはまるでついていけない。
悪い意味で感心すら覚えるくらいだ。
「ああ、僕のか。適当に買ってきてくれればいいよ」
「…あのねぇ、女1人でメンズ服売り場回ったり下着まで買ってたりしたら周りから変に見られるでしょ!それが嫌だから一緒に来てって言ってるの」
それにリドルの趣味も分からないし、一緒に来てくれた方が悩む時間も減るし。
「ね?お願い、リドル」
「………」
「お願いだからー」
「…はあ、行けばいいんだろう。長居はしないからね」
手に持っていた本をパタリと閉じて、ゆっくりと立ち上がるリドル。
リドルって、俺様で傍若無人で生意気だけどそうやって最終的には一緒に来てくれたりするとこは素直に優しいなって思う。
誰かと買い物なんて久しぶりだ。
「んじゃすぐ準備してくるから待ってて!」
わたしは勢いよくそう伝えて、自分の部屋へと舞い戻った。
▼▼▼
すごい、めっちゃ見られてる。
ショッピングモールまでの道中も、ショッピングモールに着いた後も。
リドルが日本人じゃないことも注目の原因だけど、一番は彼の外見のせいだと思う。
わたしも目の色が普通とか違うから外に出るとジロジロ見られることが多いけど、その比じゃなかった。
「ねえ、めっちゃかっこよくない!?」
「俳優とかモデルじゃない?見たことないけどやばいイケメン―!」
特に女性の黄色い悲鳴が半端ない。
そして当の本人は、またあの胡散臭いニコニコ笑顔を周りに振りまいていた。
…大統領の凱旋か何かですか。
今にも手でも振り出しそうなリドルを見て溜め息を一つ。
まあ、初対面のわたしに『僕のファンでしょ?』なんて言ってくるくらいだから元の世界でも相当の人気だったんだろう。
慣れってやつか。
「ほんと…ギャーギャーうるさいな、女ってのは」
隣を歩くわたしにだけ聞こえるように呟くリドルは、周りにいる女の子たちをバカにするように鼻で笑っていた。
笑顔を貼り付けたまま悪態をつく、なんて何とも器用なことだ。
「モテモテだね。嬉しくないの?」
「嬉しいかって?愚問だよ。自分にとってどうでもいい奴から好意を向けられて嬉しいはずがない」
むしろ鬱陶しいくらいだ。
じゃあなんで今リドルは、作り笑顔をしてまで愛想を振りまいてるんだろう。
わざわざそんな面倒なこと…。
「カヤは?」
「あ、え…なに?」
「君も注目されてると思うけど、それって嬉しい?」
そう聞かれて、なんとなくリドルの気持ちが分かったような気がした。
珍しいとか、好奇な目を向けられることを嫌だと思っても嬉しいと感じたことは一度もない。
「…嬉しくないかな」
だろ?と満足げに口角を上げたリドル。
うん、作り笑いしてるリドルよりこっちの表情の方が生意気だけど彼らしい気がする。
「まあ、その点カヤといるのは楽だね」
「それって褒めてるの?」
「褒めてると思う?」
「…分からないから聞いてるのに」
「少なくとも悪い意味ではないな」
「なら、いいけどさ」
リドルに主導権を握られているようなそんな会話。
ちょっとムカつくけど、嫌な気はしなかった。
「さて、とっとと買い物を済ませて帰ろう。
うるさいし人が多いし」
「ん、そうだね。じゃあまずは服見に行こう」
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