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引き寄せの石




普段何か欲しいなんて自分から言い出すことは滅多にないリドルだけど、欲しいものがあるから出掛けようという彼の言葉でわたし達は午後から前に初めて2人で行ったショッピングモールへ来ていた。


「情けないな」
「え?」
「君に買わせてしまうこと」


ネックレスや指輪、ピアスなどのアクセサリー類が並ぶ小さなショーウィンドウを見下ろしながら、リドルは大きな溜め息をつく。

魔法界のお金であるリドルの世界の通貨は、この世界では使うことはできないだろうしそもそも何も持たずにこっちへやってきた彼は無一文だ。
別にわたしは全然そんなの気にしてなく、むしろ貯まっていく一方のお金の使い道ができて喜ばしいくらいなんだけど。

男としてのプライドなのか、やっぱりわたしに何かを買ってもらうというのはリドルとしては非常に不本意なことらしい。


「ところでさ、リドルは何が欲しいの?」
「そうだな…僕とカヤで半分ずつ付けられるものがいい」
「半分ずつ…」


同じものを2つではなくひとつのものを半分にしてつけられるアクセサリー。
なんでそんなのが欲しいのか疑問だったけど、何かを考えながらブツブツ呟いているリドルにはきっと必要な物なんだろう。

ネックレスや指輪は半分にはできないよね。
…ってことは消去法でピアスとかイヤリングを片方ずつ、とか。

リドルも同じことを考えていたのか、様々な形や色をしたピアスのショーケースをジッと真剣な表情をして見ていた。


「カヤ、この中ならどれがいい?」
「んー?えっと…」


促されてわたしもケースの中を覗く。
その瞬間、すぐにわたしの目に留まったのは深い赤色の小さな石が装飾されたピアス。

何故かすごく惹きつけられる赤色に疑問を持ったけれど、それはすぐに解決できた。


「これがいい、このルビーのやつ」
「それ?」
「うん。シンプルでリドルもつけやすいかなって思ったし、それに…」
「………?」
「この色が、たまになるリドルの紅い瞳の色に似てて綺麗だから」


怖いって最初は思ったけど、リドルの瞳が紅くなるときはいつもわたしを助けてくれる時や心配してくれたりする時だ。

その優しい赤が、わたしは好き。


「はあ…君って本当に…」
「わ、ちょ!リドルここ外だから!」
「ハグくらい許される。本当はここで押し倒してもいいくらいだ」
「……は、!?」


爆弾発言をするリドルにビックリして思わず固まってしまうと、彼はもう一度ギュッと抱きしめる腕に力を入れてゆっくりとわたしから離れる。
熱くなった顔をパタパタと仰いでいる内に、リドルは店員さんに声をかけてショーケースからピアスを取り出してもらっていた。

それからそのピアスを購入して、わたしもリドルも耳に穴があいていなかったからピアッサーも買って適当にブラついて帰宅した。


「これには少し細工をする。それが終わったら君に渡すよ」
「細工?」
「ああ。僕とカヤを繋ぐ魔法を施してみる」


以前に本で読んだことがあるくらいの知識しかないから上手くいくかは分からない、とリドルにしては珍しく弱気な彼にわたしまでなんだか不安な気持ちにさせられた。
だけどリドルもわたしと離れたくないと思ってくれてる事実を改めて感じ取ることができて、同時に胸が熱くなる。

リドルの手の中にある小さな赤い輝きが、きっとわたし達を引き寄せてくれると信じて願うことしかできなかった。