小説 | ナノ
×
- ナノ -

想い合う



▼▼▼


ーーーお分かりいただけただろうか。
なんておぞましい声でおぞましい動画をリプレイしまくるテレビにいちいち悲鳴を上げる。


「リドルー…チャンネル変えようよ」
「嫌だ。カヤの反応が面白いからね」


夕ご飯を食べ終わってテレビを付けるとちょうどやっていたのがこの心霊番組だった、というのが運の尽き。

日本のゴーストは暗い顔してるんだな、と興味なさげに呟くリドルにそりゃ死んでるのに明るい顔してるのもどうかと思うと溜め息をついた。


「リドルはお化けとか平気なの?」
「平気も何も、ホグワーツではゴーストが常に徘徊してるからね。嫌でも慣れるよ」
「常に!?…わたし絶対ホグワーツとか行けない」


常に幽霊が徘徊してる学校とか、まともに勉強なんてできるわけないと思うんだけど…。
少なくともわたしは無理、絶対無理。


「くっ、せめてお風呂入ってからならまだ良かったのに…」
「怖いなら一緒に入ろうか?」
「…またそういう、」
「って言おうと思ったけど、この家の湯船小さいから2人は入れないな」
「ち、小さくてすみませんでしたね!」


クスクスと笑うリドルはやっぱり最初に比べたらずいぶんと表情が柔らかくなった。
それが嬉しくてわたしも同じように笑う。

さて、一緒にお風呂に入ってもらうわけにもいかないし今日はシャワーだけにしてパッと入ってパッと出てこようっと。怖いから。




リドルもシャワーを終えて、各々の部屋に入り布団に潜り込んだ…までは良かったんだけど。


「うう…寝れないっ」


テレビで見てしまった心霊映像が頭の中で勝手に再生されてしまい、忘れようにも忘れられない。
考えないようにすればいいと思うのに、こういう時に限ってやけに周りの音に敏感になってしまって余計に恐怖が増していた。

怖くないようにと電気を付けっぱなしにして寝れるかなと思ったけど、瞼を閉じても感じる明るさのせいで当然寝れるわけもない。

しばらくはスマホで何が楽しい動画を見たりして気を紛らわせていたけど、画面を見続けていたからか目が痛くなりスマホはブラックアウト。


「明日仕事なのにー…」


時計を見ると午後23時で、さすがにもうそろそろ眠りにつかなければ明日寝過ごす自信しかない。


「………」


ダメ元で、とんでもない考えが頭に浮かんだ。
今日だけ、リドル…一緒の部屋で寝てくれたりしないかな。

いやそりゃあ好きな人と同じ部屋で寝るだなんてしたらまた別の意味で寝れなくなってしまうかもだけど怖いよりはマシだし、多分リドルが何もしてこなければ普通に寝れると思うし…!

他にも最もらしい理由を探して頭を回転させるけど、結局は怖いから以外の理由なんて出てくるはずもなく。


「…リドルのとこ、行ってみよ」


絶対バカにされるだろうし、絶対断れられるような気もするけど言ってみないことには始まらない。

背に腹は変えられないんだ!と謎の決意をして、わたしは自分の使っている掛け布団を引き摺りながらリドルの部屋へと向かった。





▼▼▼[リドル視点]


ベッドの灯りを頼りに読書に耽る。
そうしようと思っていた。

けれど今日の昼間のことを思い出すと、それしか頭を占めなくなり本の内容なんかどうでもよくなる。

怪我をしたカヤの指から出る血を舐めとり、彼女から漏れた甘い声に酔い、突然鳴った大きな音にキスを邪魔されたこと。

普段のカヤからは想像できないほど色っぽい顔をして僕を見つめてたっていうのに、テレビを見ている時の彼女はゴーストなんかにビクビクして可愛かった。

他人の見せる表情ひとつひとつにこれほど翻弄されるなんて、今までの僕には考えられないな。


「…そろそろ寝るか」


開いてから1ページも進まなかった本を閉じて、枕元の灯りを消そうとした時。
聞こえてきたのは控えめなノック音だった。

ドアの向こうにいるのは間違いなくカヤ。
何となく僕を訪ねてきた理由に察しがついて、笑いを堪えながら返事をする。


「リドル、起きてた…?」


ドアの隙間からおずおずと顔を覗かせたカヤは、片手に枕ともう片方の手に掛け布団を持っていた。


「もうすぐ寝るとこだ。どうかした?」
「うっ、…えーっと、」


言いづらそうに視線を彷徨わせる彼女に、早く言えばいいのにと少し苛立つ。

きっと今のカヤは顔を赤くしてるはず。
その表情を見れないのは勿体ない、と杖をルーモスで光らせれば小さな部屋は青白く照らされた。

ほら、やっぱり顔が真っ赤だ。
僕が笑ったのに気付いたのか、カヤは頬を少し膨らませて怒り出す。


「もう!わたしがなんでここに来たか分かってるんでしょう?」
「さあね。僕を夜這いでもしにきたのか?」
「よば…!?んなわけないでしょ…っ」


そう言って僕に向かって投げてくる枕を軽々とかわして、カヤの言葉を待った。


「あの、さ…」
「うん」
「今日だけ…ここで、寝てもいい…かな」
「だめ」
「…えっ」
「嘘。いいよ」


また怒るかなと思ったけど、彼女は安心したようにホッと息を吐くと小さく笑う。

これで明日遅刻しなくて済むー!と喜ぶカヤに、僕は呆れたように肩を竦めた。
僕と同じ部屋で寝ても安全だと思われてるのが、良いことなのか悪いことなのか微妙なところだ。


「ちょっと布団持ってくるから待ってて!」
「…は?」
「いや布団、持ってこないと。さすがに床で寝たら身体バキバキになっちゃうし…」
「はあ…何言ってるんだよ。布団ならひとつで足りるだろう?」
「は?…へ、ぎゃ…っ!」


部屋を出て行こうとするカヤをアクシオで引き寄せれば、色気のない声を上げながら僕の腕の中に収まる。

自国の女より幾分かサイズの小さい彼女をギュッと抱き締めて、そのまま布団の中に引きずり込んだ。


「ちょ、ちょっと…リドル!?」
「はいはい、暴れない」
「…だって、これはさすがにまずいよ!」
「何がまずいの?ただ寝るだけだよ、カヤ。それとも…、」


何か期待した?
腕に抱く彼女の耳元でそう囁けば、カヤは「やっぱり自分のことで寝るー…!」と布団から抜け出そうとする。

その衝撃で、近付けていた唇にチョンと彼女の耳が当たるとそこから熱いと感じるほどの熱が伝わってきた。

その瞬間、グッと胸に何かがこみ上げてきて…。
彼女の望み通りに手放してあげることなんか到底出来そうもない。


「カヤ、おやすみ」
「え、本当にこのまま寝るの…?」
「………」
「リドル?」
「………」
「…っ。はあ…」


カヤが諦めたように力を抜いたのが分かると、僕は彼女を抱き締める手を少しだけ緩めた。

カヤから伝わる体温が心地良い。
安心して、落ち着いて、癒される。

愛しい彼女の温もりと香りに包まれながら、僕の瞼はゆっくりと閉じていく。


「…おやすみ、リドル」


その日、いつもの悪夢を見ることはなかった。