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似たもの同士3



▼▼▼[リドル視点]


腹が立って仕方なかった。
カヤに罵声を飛ばすあのクズも、それに何も言い返さずにじっと耐える彼女も。

気味が悪い。悪魔。
僕がマグルの孤児院で暮らしてた時に幾度となく言われてきた言葉だ。

それはマグルが、魔力という特別な力を持つ僕に対しての恐れからくるもの。

だが隣で泣きそうな顔をして俯いている彼女が、あんな風に言われる理由に皆目検討もつかず煮え切らない思いが僕をより苛立たせていた。


「わたしさ、」


おずおずと話し出すカヤの言葉に耳を傾ける。


「親に捨てられて、施設で育ってきたんだよね」


まだ産まれて間もない赤ちゃんのわたしが、施設の前に捨てられてたんだって。

予想打にしてない話に思わず彼女を見た。

生まれて間もなく親に捨てられた。
…カヤは、僕と同じ。


「…それで、どうして君が人殺しになる」
「わたしを捨てた数日後に、事故で死んだらしいんだ親2人とも。それは親戚の間で、捨てられたわたしが両親を憎んで呪い殺したって広まったみたい」
「ハッ…」


鼻で笑えるくらい、馬鹿らしいことだ。

生まれて間もない赤ん坊が人を呪い殺す?
何をどう考えればそういう考えに行き着くのか。

浅はかで愚かな奴らの考えは到底理解できないし、したくもない。


「やはりマグルは消すのが妥当か…」
「わたしだってマグルだよ?」


さっきの話の名残りから、泣きそうな顔はそのままに可笑しそうに笑うカヤの言葉に戸惑った。

確かにそうだ。カヤはマグル。
だが、違う…彼女は他の奴らとは違う。

カヤはマグルでありながら、魔力を持ち魔法を使う僕を前にして忌み嫌うことも罵倒することもしなかった。

それどころか、魔法に興味津々で自分に魔力があったら…なんて夢を見るくらいだ。

カヤはマグルであり、僕の思うマグルじゃない。
だからきっと僕はこうして、マグルである彼女と一緒に暮らすなんてことが出来ている。


「僕も親に捨てられて孤児院で育った」
「え、リドルも…?」
「マグルの孤児院で、僕はまだ幼い故に魔力のコントロールができず感情のままに魔力が暴走することもあったから、周りからひどく恐れられてた」


過去の話をするのは好きじゃない。
だけどカヤが話したのに自分が話さないままはフェアじゃない、そう思った。

それに、僕たちは似たもの同士だとカヤに知ってほしかった。


「僕の父はマグルで、母は魔法族だった。父は僕を身篭っていた母を捨て、僕を生んで間もなく母も死んだ。…孤児院で僕を蔑んだ奴らも、母と僕を捨てた父もみんなマグルだ」


だから僕はマグルなんてこの世界から消えてしまえばいいと思っている。

こんなことまで話すつもりじゃなかったんだけど…やっぱりカヤといると僕はおかしくなるみたいだ。


「リドルは、マグルが憎いんだね」
「…君は憎いと思わないのか?自分を捨てた両親や、さっきのように蔑んでくる奴が」
「憎くないって言ったら嘘になる。…でも、それだけなんだよね」


訳が分からないと顔を顰める僕を見て、カヤは困ったように笑う。


「憎いだけ、嫌いなだけ。嫌いな人が道で転ぶ、それをざまあみろって思うくらいでいい…。わたしは、自分が今までにされたことよりもこれから自分がどうしていくかが大切だと思ったんだ」


彼女はそう言ってソファから立ち上がり、パンと手を叩いてニッコリと笑って僕を見た。


「ねえ、リドルの夢ってなに?」
「…随分と唐突だね」


気が抜けて、僕は大きく息を吐いてソファの背もたれに身体を伸ばす。

身体ごと僕に向けたカヤを不思議に思って視線を向ければ、その表情は柔らかい。


「わたしの夢はね、好きな人と結婚して好きな人との子供を授かって幸せな家族を作ることなんだ」
「……っ、」
「ここまでのわたしは誰かのせいで不幸だっただけでさ…これからは、自分で不幸にも幸せにもなれる。だからわたしは幸せになるために、そんな夢を持ってる」


穏やかに綺麗に微笑んで、カヤは言った。
彼女の夕焼けのように淡く輝くオレンジの瞳が、眩しい。

同じ境遇で育ってきたのに、僕と彼女ではこうも考え方が違う。

彼女は、カヤは幸せを求めて前を向いていた。


「リドル、考えてみて?」
「…?」
「マグルをみんな殺して人々から恐れられながら過ごすのと、好きな人と一緒に毎日を過ごすのとどっちが幸せに感じる?」


恐れられれば人は離れていく。
それならマグルをこの世から消したとしても、僕の孤独は変わらないのだろう。

ならば後者は。
考えるだけ無駄だと頭では思っているのに、考えてしまった。

一緒に毎日を過ごす相手、それがカヤであるならば僕は…。


「…もうこの話は終わりにしよう」
「えー。答えは?ちゃんと考えた?」
「喧しい。僕はお腹が空いたんだよ、誰かさんのせいで食いっぱぐれたしね」


ぐっ、とバツが悪そうに押し黙ったカヤ。



その後、カヤが作ったオムライスに「ばかリドル」とケチャップで書かれているのに僕は笑った。

自分に正直で素直で、子供みたいに無邪気なカヤ。


「あ、リドル!グリンピースもちゃんと食べなよ」
「背の小さい君が成長するようにってことで。はい、あげる」
「…嫌いなだけじゃん」


でも、だからだろう。
…僕が、彼女に惹かれていくのは。