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2人でお出掛け2




▼▼▼


はあ、参った。
わたしは今、スマホを見ながら立ち尽くしていた。それも何故か1人で。


「リドル…どこいったんだろうなぁ」


わたしが自分の買い物に夢中になってしまっていたのも悪かったけど、どこか行くなら行くで一言声をかけてくれても良かったのに。

…でもまぁ、わたしに9割の原因はあるからこれは心の中に留めておくけどさ。

はぐれたと気付いた時、連絡を!と思って取り出したスマホをギュッと握りしめて一気に脱力する。

リドルが持ってるわけないよね。失敗した。
そもそも持ってたにしても番号交換もしてないのにどうやって連絡取るつもりだったんだ、わたし。


「動いた方がいいのか、動かない方がいいのか…」


リドルも馬鹿じゃない。
むしろ頭はすごく良い方だと思う。

わたしが買い物してたこのお店の近くにいれば、きっとこの場に戻ってくる気がする。

…多分、としか言えないけどね。


「オネーサン、1人〜?」
「はい?」


不意に肩を叩かれて振り向くと、明らかにチャラそうな男2人組がニヤニヤと不快な笑みをわたしに向けていた。


「うわ、すげーオレンジ色の目だ。日本人?」
「しかも美人じゃん。おまえにしては久しぶりに当たり引いたな!」
「うるせーよ!」


ギャハハ!と笑い出す彼らを見て、面倒なことになる前にとその場を離れようとする。


「おっと、待った」
「…離してくれない?」
「ヒュー気の強いオネーサンだ。俺めっちゃタイプ」
「あちゃー。オネーサン観念した方がいいよ?こいつ結構しつこいから」


パシリと左手首を強い力で掴まれて、痛みに思わず顔が歪んだ。

ナンパにしては強引過ぎやしない?

警察でも呼んでやろうか、と脅そうとさっきバッグに仕舞ったスマホを取り出そうとした時。


「ぐあ…っ!」


わたしの手を掴んでいた男が、文字通りいきなり吹っ飛んでいった。

え、なに…一体どうして?

もう1人の男がハッとして吹っ飛んだ男に駆け寄るのを唖然として眺めながら突っ立っていると、態とらしい大きなため息が背後で聞こえる。


「…なに絡まれてるんだよ」
「リドル、」


振り返ると至極不機嫌そうな顔をしたリドルがそこにいて、その瞳はいつかの時のように紅く変化していた。

右手に杖を持っているのが見えて、リドルがあの男を魔法で吹っ飛ばしたんだと理解する。

…手荒だなぁとは思うけど、いい気味だ。

わたしは伸びてるナンパ男をフンと鼻で笑いながら、リドルの隣へ移動した。


「リドルどこいってたの?」
「喉が乾いたから何か飲み物を買えるところを探しに行ってた」
「もう、それなら一言声かけてよー」

「何回も呼んだけどね。アホ面で買い物に夢中だった誰かさんには声が聞こえてなかったようでね…いっそ失神呪文でもかけてやろうかと思うくらい腹が立った」
「ヒィ!まじでごめんなさい…!!」


9割どころか10割わたしが悪かった。

ギロリと眼光を鋭くさせたリドルに土下座する勢いで謝ると、彼はまた大きな大きな溜め息をつく。


「帰るよ。買うものは買っただろ?」
「あ、うん…!」
「…カヤ。手、」
「なに?」
「手、見せて」


そう言われて右手を差し出すと、頭を軽く叩かれて「逆だバカ」と怒られた。

左手?…って、うわ!手形付いてるし、こわ。

手の形の赤紫色の痣が、わたしの左手首には薄くハッキリと残っていてあの男どんだけ強く掴んだんだと若干引く。


「…チッ。あいつ粉砕呪文で木っ端微塵にしてやれば良かったか」


低く唸るように言ったリドル。

わたしに対して言われてるわけじゃないのにその声音があまりにも怖くて、彼がわたしの左手首に触れてビクリと肩を揺らしてしまった。

リドルはわたしの手首をスリスリと親指の腹で数回撫ぜてから、その痣を杖でなぞる。

思ったより優しいその手つきに驚きながらも、少し鼓動が速くなるのを感じた。


「…わ、治った!消えた!」


手首の痣は跡形もなく消えていき、リドルは杖をホルダーにしまう。

魔法って何でもありなのか…。
こんな綺麗に、こんな早く傷を治せるなんて凄すぎる。

はあー!と感動してしばらく手首を眺めている間に、リドルはさっさと前を歩き出していく。


「あっ、リドル!」


わたしはリドルに駆け寄って、クイッと彼の手を引くと身長差もあり彼はわたしを見下ろした。

その瞳は綺麗な黒に戻っている。


「ありがとう、リドル。助けてくれて!あと傷も治してくれて」
「…別に、単なる気まぐれだ。次は放置するから」
「ふはっ。…うん、気まぐれでもいいや。リドルが助けてくれたのは事実だし!」


優しいね、リドルは。
最近流行りのツンデレってやつ?

続けてそう言うと、「は?」と凄みのある声で返されてわたしはすぐにごめんなさいする。

リドルの知らない一面が見れたような気がして、なんだか嬉しくなった。


「ニヤニヤするな、気持ち悪い」
「ひど…!」


それから。

本がほしいと言うリドルに、そう言えば日本語で書かれてるのに読めるの?という疑問をぶつけると魔法で読めるようにしてたと言う。

魔法の便利さを改めて実感して、わたしも使えるようになりたいなーと思っていればそれが伝わったのかリドルは鼻で笑っていた。


「君には無理じゃない?頭の回転遅そうだし」


…ほんとに生意気な居候人だよね。