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09



ユバを出立する時。
トトおじさんに泣きながら『オアシスを蘇らせてくれてありがとう』と言われて初めて、わたしの能力が人の役に立てたという実感が得られた。

命を吹き返したというユバの水を樽の水筒に人数分入れてくれたおじさんにこっちも感謝して、わたし達は反乱軍を追ってまた砂漠を歩く。


□ □ □



「――…やめた」


ユバを出て少しして、そう言い放ったルフィはドスンと砂漠の大地に腰を落ち着かせてしまう。
今までに見ない真剣な表情をしているルフィに、彼には何か思うものがあるんじゃないかとわたしは何も言わずにその様子を見守ることにした。


「やめたって…ルフィさんどういうこと!?」
「おいルフィ!こんなとこでおまえの気まぐれに付き合ってるヒマはねェんだぞ!?さァ立て!」


ビビ、そしてサンジが声を上げるけどルフィは木に背を預けたまま『戻るんだろ?』とだけ言う。


「そうだよ。昨日来た道を戻ってカトレアって町で反乱軍を止めなきゃおまえ…この国の100万の人間が激突してえれェ事態になっちまうんだぞ!ビビちゃんの為だ!さァ行くぞ!!」

「――…つまんねェ」


必死なサンジにルフィは冷静にそう返した。

ルフィが何か思う事があるのには察しがついてはいるけど、彼が何を言いたいのかが分からない。
思わず首を傾げて隣にいたナミと顔を見合わせたら、わたしの後ろでロシナンテが小さく笑ったのが聞こえた。


「ビビ、おれはクロコダイルをぶっ飛ばしてェんだよ。反乱してる奴らを止めたらよ、クロコダイルは止まるのか?」
「……、!」
「その町へ着いてもおれ達は何もすることはねェ。海賊だからな。いねェ方がいいくらいだ」


ルフィの言ってることは最もだ。
そもそもアラバスタの事件の原因は、全てクロコダイルの陰謀で、たとえ反乱軍を止めることが出来たとしてもその元凶を潰せなければ何の解決にもならない。


「おまえは、この戦いで誰も死ななきゃいいって思ってるんだ。国の奴らも、おれ達もみんな」
「…………」
「七武海の海賊が相手で、もう100万人も暴れ出してる戦いなのにみんな無事ならいいと思ってるんだ」


そう思っているビビを“甘い”、そして“人は死ぬぞ”と紡いだルフィをビビが思い切り引っ叩いた。
想像以上に強く叩かれたらしいルフィは空中を回転しながら少し吹っ飛んでいく。…すごく痛そう。


「反乱軍も国王軍も、この国の人達は何も悪くないのに…っ何故誰かが死ななきゃならないの!?悪いのは全部クロコダイルなのに…!!」
「っじゃあ何でおまえは命賭けてんだァ!」


ボカッ!とあろう事かルフィがビビを殴り返し、ウソップやサンジが非難の声を上げる。

やられたからやり返すっていうのは別にいいけど、グーはさすがにダメだよルフィ…。
後でビビの頬を冷やしてあげようと鞄からハンカチを取り出して、手から水を出して濡らしておく。


「この国を見りゃ一番にやんなきゃいけねェことくらい、おれだって分かるぞ…!おまえなんかの命1個で賭け足りるもんか!!」
「じゃあ一体何を賭けたらいいのよ!他に賭けられるものなんて私、何も…ッ!!」

「おれ達の命くらい一緒に賭けてみろ!!仲間だろうがァ…!!」


ルフィの言葉が砂漠にキンと響き渡る。
ビビは、口を押さえてフードを深く被って…そしてずっと無理して笑っていた彼女の瞳からやっと涙がこぼれ落ちた。


「教えろよ、クロコダイルの居場所!」


ルフィの言葉に力強く頷いたビビ。
わたしは彼女に近付いて、乾かないようにずっと濡らし続けていたハンカチをそっと頬に当てた。


「一緒にクロコダイルぶっ飛ばそう?ビビ」
「…っええ…!」


笑ったビビの笑顔は、今までみたいに1人で何かを背負って我慢して…無理に作られたものじゃなくなっていた。