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08



ビビの知り合いだったトトおじさんの厚意で宿を借りることが出来たわたし達は、長い砂漠の度で疲れた身体をやっと休ませることができるようになった。

ゾロがウソップに投げた枕から始まった枕投げ合戦の合間に、わたしはそろそろとその部屋から抜け出すことに成功する。

手に持ったトートバッグに確かな重みを感じたのを確認して宿の外に出たら、壁に背を預けてタバコを吸っているロシナンテがいた。


「…ロシナンテ」
「ナマエ!待ってたぞ」
「服、燃えてるけど」
「っ…!わ、あっちィ…!?」
「はあ……ドジ」


□ □ □


ーーーミズミズの実、食べようと思う。

ロシナンテにそう告げれば、彼はしばらく何の言葉も発することなく満天の星空を眺めていた。
理由を聞かないのはきっと、わたしがどうしてそう決めたのかが彼には何となく分かってるからだ。

干ばつに苦しむ町、そして人々。辛くて苦しい状況でも気丈に振舞って無理して笑うビビ。彼らの手助けになりたい…そう思っても、今のわたしは無力で。

クロコダイルをぶっ飛ばそうとルフィのように言ってみても、ただ拳を振るえるだけのわたしじゃいくつもの修羅場を潜り抜けていただろう海賊の彼らの迷惑になる。
ロシナンテだって海軍にいた頃は海賊達や他の悪い人達と戦ったり、こっちに戻ってきてから白ひげさんのところで新しい能力を見つけてずっと強くなった。


「いいのか?悪魔の実は前に話したと思うが、海に嫌われて一生カナヅチになっちまう。それに、一度食っちまったら普通の人間には戻れなくなる」


ロシナンテはそう言うけど、わたしにとってはそのどちらも超人的な能力を手に入れる上でのデメリットにはなり得ないと思った。


「カナヅチなんて気にしないよ。だってわたし、そもそも泳げないし」
「…は、そうなのか!?」
「うん。それに普通の人間≠ナあることに拘りなんてないし、それも別に。人間でいられるならいいよ」


ロシナンテにニコリと笑いかけると、彼は軽く頭をかいてから息を吐いて、それから少し口角を上げた。


「能力を上手く使いこなせるかどうか。それによって強くなれるか、宝の持ち腐れになっちまうのかが決まる。前までの俺がそうだったからな…」
「うん。強くなれるように努力する」
「…よし!んじゃちょっと待ってろ。そのまま食ってもいいが皮は剥いた方がいい。ナイフ持ってくる」


わたしの頬をするりと手の甲でひと撫でして宿の中へ入っていったロシナンテは、枕投げに巻き込まれたのか少し時間が経ってから頭をボサボサにして戻ってきた。


「んんっ…まっず…!」
「やっぱ不味いんだな…。悪魔の実っつーのは味はどれも共通なのか?俺のはめちゃくちゃ苦かったぞ」
「………すごい酸っぱい。舌ザラザラする」


ミズミズの実は今まで口にしてきたもののなかで一番、びっくりするくらい不味かった。

わたしが顔を歪めるのを見てロシナンテがケラケラ笑うからそれに怒っていると、オアシスのあった場所を掘り続けているトトおじさんとその傍らでグーグー寝ているルフィが目に入る。


「……おじさん」
「ん?ああ、君たちはルフィ君の…。待ってなさい。朝までには少しでも多くの水を掘ってやるからね」


そう言って笑い、サクサクとスコップで砂を掘り始めるトトおじさんのシワシワな手に触れてそれを止める。
わたしのことを不思議そうに見るおじさんに『少し試させてください』と一言断り、地面に手をつけた。

ミズミズの実の能力…わたし自身が水で、水を操る。
能力の使い方なんて分からないし、知らない。でも、イメージする。水を出すイメージ…。


「ー…っ!?なんということだ…!君は…っ」


瞑っていた目を開けてみれば、わたしの右腕がちゃぷちゃぷと音を立てて水に変化していた。

そして続いて左腕も同じように水になると、そこからたくさんの水が溢れ出ておじさんの掘った穴にどんどん溜まっていく。
きっとこのままここに溜まった水が地面を浸水していって、元あったオアシスを生き返らせてくれるはず。

トトおじさんとルフィを水の溜まる穴から救出してくれたロシナンテが、水に浸かるわたしを見て心配そうな表情を浮かべていた。


「…ナマエ!!」


そのロシナンテの声を最後に、わたしはフッと意識を飛ばしてしまったのだった。