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01




ロシナンテと、彼の元の世界へと来れたまではよかったけれど…あの妙な突風で離れ離れになってしまった。

沈んでいた意識が浮上して目を開けると、何故かベッドで寝ていて、目の前には…。


「…たぬき?」
「おれはトナカイだ!!」


人の言葉を話す、トナカイがいた。


□ □ □



無理すんなよ、と労ってくれる喋るトナカイに連れられて部屋から出るとフワッと香る磯の匂い。
眩しくて思わず目を細めると、その視界に映ったのは麦わら帽子を被ったドクロ。

ヤバいかもしれない。これ…海賊の船だ。


「おー!おまえ起きたのかー!」


駆け寄ってきたのは赤い服に麦わら帽子を被った青年で、その周りにいる人たちは実にカラフルだった。

オレンジ、黄色、水色、緑。
わたしの世界では珍しいその色にパチパチと瞬きしていれば、その中のオレンジがわたしに近付く。


「状況が分かってないって顔ね」
「あ…、うん。分からない」
「海に漂流してた木の板に乗って気を失っていたあなたを、あたし達が拾ったのよ」


オレンジ色の髪のナイスバディな彼女はそう説明して、肩を竦めて大きく溜め息を吐く。

ロシナンテと離れてしまって、風に飛ばされているうちに気を失って、海賊に拾われた。
海賊って人を殺したり物を奪ったり悪いイメージしかないけれど、大丈夫…だろうか。


「初めまして、麗しきプリンセス。さあ、冷めないうちに温かい紅茶をどうぞ」


金髪で眉尻がグルグルしている人から差し出された紅茶を反射的に手に取り、ありがとうと見上げると彼はマンガみたいに目をハートにさせて意味の分からないことを叫びながらクネクネと身体をくねらせていた。

陶器越しに感じる温かさは、手の平から身体中へじんわりとその熱を広げてくれる。
いきなり殺されたりはしないみたいで一安心だけど…これからどうやってロシナンテを探したらいいんだろう。


「お、おまえ…何だって漂流なんかしてたんだよ」


ピノキオみたいに鼻の長い人が足をガクガクさせながら聞いてくる。あんな鼻の形の人間もいるんだ。


「恋人と海の上にいたんだけど、突然強い風に吹かれて飛ばされて離れ離れに…」
「こ、恋人ォ…!?」
「サンジくんうるさい!…それで?」
「それで、気付いたらここにいた」


そこまで話して、わたしは今着ている服が自分が着ていたものではないことに気付いた。

海に漂流していたと言っていたから、きっとオレンジ髪の子か水色の髪の女の子のどちらかの服だ。
着替えまでさせてくれるなんて、この海賊たち…なんだかとても親切な気がする。


「身体が飛ばされて意識すら飛ぶほどの突風なんざ吹くか?普通」


低い声が聞こえた。
それは、緑色の髪の持ち主で腰から刀を3本もぶら下げている男から発せられたもの。


「Mr.ブシドー。ここは偉大なる航路…普通じゃないことなんて起こって当然の海だわ」


彼にかけられた疑いから水色の女の子が庇ってくれる。

偉大なる航路(グランドライン)は、ロシナンテから聞いたとこがあった…ということはやっぱりこの世界は紛れもなく彼がいた世界なんだ。
異世界に来たという実感が未だにないのも事実だけど。


「それで、おまえこれからどうするんだ?」
「次の島まで船に乗せてくれたら嬉しい」
「おう!いいぞ!」


ルフィ!!と麦わら帽子の彼は仲間から怒られているが、『困ってんだから助けてやりゃいいじゃねえか!』とニコニコ笑っていた。

ーー…なんだか。


「海賊っぽくない」
「ま、あんなんでもうちの船長だ」


いつの間にか隣にいた金髪の彼は、呆れたようにそう言ってわたしの手からスムーズに紅茶カップを取る。

とりあえず。
次の島まで乗せてもらって、それから適当にどこかで働かせてもらってお金を貯めてロシナンテを探す。
手掛かりもなしにどれだけ広いかも分からない知らない世界でロシナンテを探すのは無謀かもしれないけど、きっと彼もわたしを探してくれるはずだから。


「ロシナンテ…」


呟いて、どこまでも続く青い海を見つめた。



想い人を思う
(はやく会いたい)

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