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思っていたよりも早く、その時はきた。
意外とすんなりと。そして、いきなり。

ロシナンテがわたしのところへ来て、もうすぐで1ヶ月が経とうとしていた。


□ □ □



「なあ、ナマエ」
「なあに?」
「あー、っと…ナマエって俺と会う前とか、恋人とかいたことあるのか?」


お風呂から上がって濡れた髪をタオルで拭きながらリビングへ戻ると、テレビから目を離すことなく質問を投げかけてくるロシナンテ。

わたしは牛乳パックに直接口をつけたまま少しのあいだ固まって、それから手に持ってるものを冷蔵庫にしまうとロシナンテの隣へと腰を掛けた。


「どうしたの?いきなり」
「い、いや…特に理由はないんだが気になってな!」


ふうん?と相槌を打ってわたしもテレビへと視線を移したら、何でそれを聞いてきたのかが分かった。

深夜にやっている恋愛ドラマ。
主人公の男とその恋人である女がいて、その女の元彼が現れてヨリを戻そうと奮闘。

主人公と元彼の2人を好きになってしまった女が、『どっちか1人なんて選べない…!』と泣き崩れているシーンが今は流れている。


「はー、くだらな」
「……え、悪ィ!変なこと聞いちま、」
「違うよ、このドラマが」


要するにロシナンテはこのドラマを見て、わたしに元彼なる存在がいるかどうか気になったわけだ。
こんなクソみたいな内容のドラマ、深夜でも放映する価値ないと思うんだけどなー。


「いたことないよ、今までに恋人なんて」
「………本当か?」
「何で嘘つかなきゃならないの」
「いや、だってよ…ナマエは美人だし可愛いし性格もいいだろ?周りの男がおまえ程の女をほっとくはずがねェ…と思うしな」


ベタ褒められ過ぎて恥ずかしくなる。
思い返してみれば、わたしを好きだと言ってきた男の人はなかなかに多かった気がする。いちいち数えてはいないから、多い少ないの基準もよく分からないけど。

ロシナンテを好きになった今なら分かるけど、きっと彼らは恋愛感情でわたしに好きと言ってたんだろう。
そう考えると確かに、稲森の言ってたように何の返事もなく礼を述べるだけだったのは…悪いことをしたと今更ながらに反省をしておく。


「それを言うならロシナンテだって、カッコイイし優しいしドジだし。周りの女の子がほっとくはずないよね」
「…ドジって褒めてんのか、それ」
「うん。ドジなところも可愛くてわたしは好き」
「、〜…っ!はあ……」


大きく息を吐きながら頭をガシガシとかく。
これはロシナンテが照れ隠しをする時によくやる動作で、ちらりと見えた彼の頬が紅潮してるのが見えた。

こうやって素直に反応してくれるような、そういうところも可愛いよね。


「…俺は、こんな風に誰かを好きになったこともなければ恋人がいたこともねェよ」
「うーん。でもロシナンテ、明らかに童貞ではなかったような気がするけど」
「ど…っ!…それは、さすがに26にもなって経験がないってのは男としてどうなんだよ…」
「恋人じゃない人とエッチしてたの?」


少し意地悪をするように聞けば、ロシナンテは顔を歪めて口を噤んでしまう。
きっとわたしに何て言えばいいかを必死に考えてくれてるんだと思った。

別にわたしは咎めてるわけじゃない。
人間の三大欲求にもあるように、満たされなければ欲してしまうのは仕方の無いこと。男の人は女の人よりもそれが強い傾向にもある。

好きな人も恋人もいなかったというロシナンテの言葉は事実なんだろうし、そんな彼がわたしを好きだと想ってくれてる今があれば過去なんてどうでもいい。


「ごめんね、変なこと聞いたよね」
「…ナマエと出逢う前の話だ。そこには何の感情もなかった。…ッだが今は違う!俺は、ナマエさえ傍にいてくれりゃ他の女なんざどうでもいい。ナマエは俺が初めて好きになった女、なんだよ…」


嫌わないでくれ、と小さく聴こえた呟きは少し掠れていて。グスン、と鼻をすする音も聞こえる。


「ロシナンテ、何で泣くの」
「……っ泣いてねェ!」
「わたしがロシナンテを嫌うなんてそんなこと、ロシナンテがドジじゃなくなるのと同じくらいありえないよ」


涙を引っ込めて微妙な顔をするロシナンテに、思わず吹き出して大爆笑してしまった。

もう知らん!と拗ねて怒ってしまったロシナンテに機嫌直してもらおうとその身体に触れた…その時。