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怪我の功名ならぬ風邪の功名なのか。
ロシナンテもわたしのことを恋愛感情として好きだと想ってくれていたなんて、夢にも思わなかった。

愛してると言われた時、ロシナンテの変な笑顔のせいで思わず笑っちゃったけど。
わたしも同じ気持ちだよって心の中で何度も告白していたのは内緒のこと。だってあの場で改めて口に出して言うのは少し照れ臭かったし…。

ロシナンテがいつ元の世界に戻ってしまってもおかしくない不安に押し潰されそうにはなるけれど、それを掻き消してくれるくらいの幸せを感じていた。


□ □ □



夕飯を食べ終わり、食器を洗い終えてソファに座ればロシナンテがわたしの太ももに頭を乗せて寝転がる。
ロシナンテと恋人関係になってからというもの、これが自然になっていた。


「こいつ歌うまいな…!」


なんて言いながら歌番組を見るロシナンテのフワフワの金髪を撫でた。

人を好きになるって初めてのことだけど…心満たされてポカポカと温かくなる胸が擽ったい。
その感覚に陥る度に、わたしはロシナンテのこと本当に大好きなんだって実感する。


「ロシナンテ、」
「んー?……っ、!?」


名前を呼んで、こちらに顔を向けた彼の薄い唇に触れるだけのキスをした。
恥ずかしい気持ちは確かにあるんだけど、ロシナンテとキスするの好きだから。

ロシナンテも外国ならではの積極的な時もあるけど、意外と初心な面もある。そんな可愛いところも彼の魅力だ…って、わたし本当にどんだけ好きなの。


「…ナマエ」
「なあに」
「俺は、我慢してる」
「………?」
「だから、そういうことすっと…我慢できなくなる」


熱っぽさと色気を宿した赤い瞳がわたしを捕らえた。

伸ばした手で、わたしの頬そして首筋を撫でるから身体がビクリと反応してしまう。
わたしももういい大人だしロシナンテが言わんとしていることは分かってはいる、けど。

ー…勇気が出ない。
そういう経験を今までしたことがない故の恐怖とかではなく、もっと別のもの。


「…悪い。そんな顔させるつもりじゃなかった」


苦笑して身体を起き上がらせたロシナンテは、わたしの隣に座り直すとポンポンと頭を撫でてくる。


「あー…っと、ひとつ言っておくが俺はただヤリたいだけとかそんなんじゃねェからな」
「ロシナンテ…」
「ナマエが好きだからだ。…俺はおまえが心決まるまで待つさ」


そう言ってニッと笑ったロシナンテ。
ギュッと心臓を掴まれたように苦しくなって、目の奥が熱くなってくる。

打ち明けたい、言ってしまいたい。
でも、わたしのこの身体を見て幻滅されたら?引かれたら?気持ち悪がられたら?

ー…きっと、絶対に立ち直れなくなる。


「ナマエ、大丈夫か?」
「………っ!」


優しい声がストンと耳に入ってくる。
俯いていた顔をバッと上げたら、眉を八の字に下げた切なげな表情のロシナンテがぼやけた視界に映った。


「何で泣いてんだよ…どうした?ナマエ。俺が何かしちまったのか?」
「ち、がう…っ」
「……………」
「ロシナンテに、嫌われたくない!わたしの身体は、綺麗じゃないんだ…」


ロシナンテに出会ってから、感情的に喋ることが多くなった自覚がある。

今までは、稲森にも言ってたように誰にどう思われようが気にもしてないしどうでもよかった。
両親や爺ちゃん婆ちゃん達以外に何か特別な感情を抱いたことがなかったから。

…だけど、ロシナンテは違う。だから怖い。


「ナマエ、俺を見ろ」


大きな手の平がわたしの両頬を包み、いつの間にかまた俯いてしまっていた顔をゆっくりと上に上げさせる。


「どんなナマエでも俺は受け止める。…そんなもん当たり前だ。おまえが思ってるよりも俺は、ナマエのことが好きで仕方ないからな」


だから俺を信じて話してみてくれねェか。
そう言うロシナンテに、わたしは一呼吸置いて、コクリと確かに頷いた。